【本の感想】山田詠美『ぼくは勉強ができない』
山田詠美『ぼくは勉強ができない』は、勉強が”できない”男子高校生が主役の連作短編集です。
各作品には、愛とか死とか性とか世界観とか人生観とか、がぎゅうっと詰まっています。
高校生の時田秀美は、勉強はできないものの人気者です。デートに忙しい母、恋をしている祖父と、貧しいながらも恋愛には風通しの良い家庭に育った秀美。バー勤めの年上の桃子さんが恋人です。
母、祖父と秀美に交わされる性にあけすけな会話にはギョっとしますが、表現はどうであれ、言わんとするところは教育論として興味深く読むことができます。テレビで見るようなアメリカンな親子(例えば、「パートリッジ・ファミリー」とか)にさも似たり。
秀美がきわどい会話のできる間柄 桜井先生、素行のよろしくない幼馴染のモテ女子真理など、秀美を取り巻く人々も個性豊かです。学内での恋愛に関わるいざこざは、よく見る風景ですが、秀美がいると違った色合いを見せてくれます。それだけ、秀美のキャラクターがしっかりと形作られているのです。
少年のようなイノセントな感性を見せたと思いきや、人生に達観したかのようなセリフをはく秀美。 成人でも子供でもない年代の独特の青臭さがよく表されています。
サッカー部植草の元カノ黒川礼子と桃子さんのバーへ行ったり、校内に避妊具を落として佐藤先生に叱られたり、同級生の片山が時差ぼけで自殺したり、友人の代わりに告白した女子からしっぺ返しをくらったりと、秀美の高校生活がつづられていきます。
気に入ったエピソードは、「雑音の順位」。恋人 桃子さんが、昔の男と一夜を共にしてしまうのです。桃子さんの告白に、秀美の心は千々に乱れます。その時の秀美の雑音を、嫉妬の音を表現するあたりは巧いですね。それにしても、桃子さんの女心は、大人の自分でも分からんのだよなぁ。
そんな秀美も将来を考えなければいけない時。さて、勉強ができない秀美の出した結論は・・・
本作品集の「番外編・眠れる分度器」は、小学校高学年で転校してきた秀美と、教師 奥村の軋轢が描かれています。秀美の主張する学校のルールを逸脱した正論に、怒りを募らせる奥村。 秀美とクラスメートの貧困家庭との関わりや、秀美の母(仁子)と奥村の差し飲みでの会話など、内容の濃いエピソードです。
言い訳がましくも聞こえることですが、勉強ができない、は、頭が良くないとは違うんですよね。
1970年代のTVドラマ「パートリッジ・ファミリー」はこちら。次男のダニーがきわどい話をママに言っちゃうシーンは、子供ながらに、これがアメリカンな親子!と感嘆したものです。