【本の感想】大石賢一『マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則』

大石賢一『マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則』

マンガ原作者はというと、世代的に故 梶原一騎(高森朝雄) 、小池一夫、武論尊を思い起こしますが、お仕事の内容は、ずっと謎のまま今日に至っています。

大石賢一『マンガ原作の書き方 入門からプロまで77の法則』は、プロのマンガ原作者が、マンガ原作の書き方をレクチャーするというもの。自分は、あまりこの手のハウツー本を読まないのですが、マンガ原作というお仕事を知りたくて手に取りました。

本書は、各章のテーマに沿って、例えば「マンガ原作とは何か」といった問題提起があり、それに対する解として法則をまとめていくという体裁をとっています。読者にウケるための、創作のテクニック集なのです。どんなにマンガ原作者が頑張ろうが、作品として面白くなければ意味はありません。著者は、原作者の自己満足に陥る愚を、やや辛口でばっさりと切り捨てていきます。割り切ったもの言いですが、それがかえって理解をし易くしています。

本書を読むと、マンガ原作は、小説や、映画・ドラマのシナリオとは、明らかに創作の観点が異なることが良く分かります。著者は、活字的発想や、映像的発想ではダメで、マンガ的発想ができなければ、マンガ原作者となることはできないと言います。

例えば、以下のような法則を提示します。

「ストーリーは主人公の歩いた道だ -法則11」
(小説、映画は魅力的なストーリを作る。マンガは魅力あるキャラクターを作る。それが動けば魅力あるストーリーになる)

「マンガ家の発想を取り入れるべし -法則16」
(活字的発想ではテーマ優先で主人公のキャラクターが明確にならない。マンガ的発想はキャラクターから制作に入る)

「シーンをあちこち飛ばさない -法則37」
(映像的発想の人、活字的発想の人はおかまいなしに飛ぶ。なるべくマンガ家に苦労させないように、シーンをまとめていくべき)

「主人公は自分の欲望に忠実である -法則47」
(どうすれば魅力的な主人公を作れるのかというベースの発想。頭の固い活字屋的発想人にはこれを理解できない)

マンガ『築地魚河岸三代目』を掲載し、著者の原作シナリオと対比させているのが面白いですね。マンガ原作が、どのようにマンガ化されているかと共に、マンガ原作者が、マンガ家の領域にある程度、踏み込んでいることが良く分かります。

本書は、「魅力的な葛藤を作る -法則28」、「マンガのテーマとアンチテーゼをしっかり踏まえる -法則29」等、なるほどと思う法則が幾つもあります。マンガ原作者を志す方以外であっても、マンガが好きならば違った楽しみ方を与えてくれるでしょう。特に、「主人公のやりたいことをやらせてあげる -法則26」において、サザエさんの目的、やりたいことは何かとの著者の問いかけが秀逸です。「毎日を楽しく生きたい」を正解としているのですが、正鵠を射ていて笑ってしまいました。『ONE PIECE』なら”海賊王になる”、『NARUTO-ナルト』なら”火影になる”ですね。

「アイデアの出し惜しみをするな -法則58」では、ビジネス一般にも通じるところがあるので紹介しましょう。

プロでもない人がアイデアを出し惜しみして何かいいことがあるでしょうか。これで世の同人に勝てると思いますか。 ・・・プロって車の給油タンクをカラにする達人だと思います。毎回ガス欠になるまで走る。全部出し切る。タンクの底が見えてしまう。走れない。その時給油してはじめてひと息つく ・・・再び満タンにして何事もなかったかのように走り出す。プロってそういう人たちです。

著者のプロフェッショナルな姿勢に、感銘を受けました。

大石賢一 原作、はしもとみつお 作画『築地魚河岸三代目』はこちら。オリジナルは、第1巻のみ原作のようですね。