【本の感想】綿矢りさ『ウォーク・イン・クローゼット』

綿矢りさ『ウォーク・イン・クローゼット』

最近の若いコらは、果たして恋愛に興味があるのでしょうか。うちの子供らは、カノジョ、カレシがいても、どうも恋愛に萌えているようには思えません。次男は月イチしか会わないそうだし、長男に至っては、世間体が気にならなければ、いなくても良いかなという始末です。

自分の思春期から20代にかけては、”恋に恋焦がれ恋に泣く”ぐらいに恋愛に奔走していたはず。 今の世の中、日々の生活を愉しくするのは、何も恋愛だけじゃないのでしょうね。自分があの世へ逝く前に、孫の顔は見せて欲しいと、少々焦りを感じたりして(焦ったところで何もできないんですが)。

綿谷りさ『ウォーク・イン・クローゼット』のタイトル作は、恋愛至上主義の女子が主人公です。

早希は、対男用のモテファッションで武装し、「欲しいものを掴みとろうとする」28歳。非恋愛関係でありながら気になる存在ユーヤ、既婚者の紀井、本命(?)隆史くんらと恋愛闘争を繰り広げます。 早希のような気をもたせ女子には、自分も若かりし頃、随分痛い目に会いました。 今更ながら、本作品で、彼女らの戦略の如きものを理解するに至ります。本作品は、何が手段で何が目的なのか本人にも分かっていない、モヤっとした迷走感が上手く表現されているように思います。反省もままならず、失敗を繰り返す早希に、図らずも共感してしまいました。

幼馴染の、末次だりあ のウォーク・イン・クローゼットが、早希の目指すもの。そこには、早希の憧れのモテファッションが一杯です。

タレント(プチ有名人)である だりあ は、早希の知らぬ間に妊娠7か月の身重。それがマスコミにバレて、てんてこ舞いになります。本筋ではありませんが、マンションからの だりあ脱出行はなかなかのスピード感です。早希は、だりあの逃走を手助けするうちに、少しだけ考え方に変化があらわれます。ここで、本作品は、成長物語だったんだ、とハタと気づきます。子を産んだ だりあから譲り受けたクローゼットは、早希にとって、もう武装を仕舞っておくものではなくなったのです。

自身の身の丈で、女子が精一杯生きてる感は、洗濯したてのカラフルなお洋服のようです。ラストは清々しい印象を残しました。うちの子供らにも、こういう恋愛至上主義な時があっても良いように思うんですがねぇ。

本作品に収録されている『いなか、の、すとーかー』は、陶芸を始めて三年足らずの主人公が、ストーキングされるお話しです。

石居透は、田舎の小椚村で窯を構え、陶芸に勤しむ日々。ドキュメンタリー番組「灼熱列島」(!)に取り上げられて有頂天です。そんな透の前に、ストーカー砂原美塑乃が現れて ・・・ と続きます。

この主人公は、ライトな気分で陶芸を始め、ラッキーなことに脚光を浴びつつあるのですが、実はメンタルが豆腐並み。ストーカーの出現に狼狽え、友人すうすけ に助けを求めるチキンぶりです。砂原美塑乃を撃退すべく策を練る透とすうすけ。そこに新たなストーカーが・・・

本作品は、著者らしい軽妙さはありますが、終盤にかけて毒気が抜け、綺麗にまとまって失速してしまいました。残念・・・

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