【本の感想】福田千鶴『御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争』

福田千鶴『御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争』

現代の企業内や、政党内での紛争でも、ごくたまに耳にする「御家騒動」。

歴史的には、大河ドラマにもなった山本周五郎『樅ノ木は残った』の伊達騒動が有名です。御家騒動=改易といった、幕府による懲罰的なイメージが強いですね。学校教育では、外様大名のお取り潰しに、積極的に利用されたと習った記憶があります。

福田千鶴『御家騒動―大名家を揺るがした権力闘争』は、そういった固定観念がどのような過程で成立したかを、豊富な事例をもとに解説してくれます。

読み進めていくと、幕府の対応方針を誤解していたことが良く分かります。幕府は、家中が紛糾して調停を仰がれた時、外様であってもできるだけ穏便に治めようと配慮するようなのです。大名が無能で、従者が排斥を訴える場合でも、転封、分封等で統制を再構築しようとしてくれます。

こういった器量を重視する下剋上社会が、家筋を重視する伝統社会へ越後騒動(1681年)をきっかけに転換するとのこと。秩序を保てないのであれば相応の処罰を与えるようになっていきます。将軍家一門であっても改易してしまう強権発動の成果で、以降、大名・家中の問題は、親族集団で解決を図るようになり、幕府が介入する御家騒動はめっきり少なくなるといいます。

実に興味深い主張です。

事例は、加賀騒動、黒田騒動、伊達騒動といった三大御家騒動を含め、多数掲載されています。アウトラインではあるけれど、御家騒動の実情がよく理解できるでしょう。小説からインプットするために、村上元三『加賀騒動』葉室麟『鬼神の如く: 黒田叛臣伝』を手に取ってみるとしますか。

成人が特定の年齢ではなかったなど、雑学としてもためになる記述も多く、みられます。