【本の感想】榎本博明『「上から目線」の構造』
「なんだ、あの上から目線は」。これは、よく耳にする言葉です。
榎本博明『「上から目線」の構造』は、この「上から目線」発言の心理構造の解剖を目的としています。
最近、上司や先輩からの意見、アドバイスを「上から目線」と非難する人が増えてきているようです。自分は、後進を熱心に指導しないこともあって、直接的に噛みつかれたことはないのだけれど、これが原因でアツくなっている場面には遭遇したことはあります。同僚ならともかく、目上の人からの「上から目線」への駄目出し。理屈がわからないので、本書を手に取ってみました。
本書は、上司と部下、同僚、顧客、友人など、他者との関わりにおける「上から目線」の仕組みについて、心理学的アプローチで論を展開します。心理学の応用でありがちな、○○効果、××法則を多用して、読者を煙に巻くようなことはありません。引用する図書も手近なもので、全般的に分かり易く記述されています。
自分が注目したのは、会社生活における「上から目線」発言のメカニズム。自身のコンプレックスに起因する攻撃性、「甘えの文化」の中での被害感情の発露、安定性を欠く自尊心の攻防戦、過剰な比較意識、現実逃避としての装置など、首肯しはするものの、正論過ぎるでしょうか。
「あの人は、自分が大好きですから」。「上から目線」発言をする人をこう評しているのを聞いたことがあります。「自分は、こんなもんじゃない」という誇大自己や、日本的な受け身の自己愛に持ち込まれたアメリカ的ミーイズムは身近に観察されるので、ここは感銘を受けました。ウチとソトの心理的な距離の変化や、母性原理の「包含する」機能が強くなっているとの主張も面白いですね。
ただ、フリーター、派遣社員、はては便所飯まで、話が広がりすぎて、掴みどころが難しくなってしまっています。問題を提起し、解決策を提示するのが本書の目的ではないはずですが、どうもそちらの方へ向かっている印象があります。昨今の若者の矮小さを嘆いているようでもあり、「上から目線」の説教臭さを感じてしまいます。他者との関わりについて、ヒントを与えてくれるのは確かなので、一読の価値はあるとは思いますが。
ちなみに、自分は、「なんだ、あのどや顔」は、というのも気になっています。