【本の感想】石井光太『絶対貧困―世界リアル貧困学講義』
1日1ドル以下で生活している人12億人(約5人に1人)。
ドキュメンタリーなどで海外の貧困者を目にすると、日本に生まれた幸運を感じざるを得ません。と同時に、テレビカメラの向こうから見せる彼らの笑顔は、そういう思いを抱いた後ろめたさを拭い去ってくれるような気がします。それでも彼らは、前向きに生きているのだと。
石井光太『絶対貧困―世界リアル貧困学講義』は、アジア、中東、アフリカ諸国の貧困地域の実態を、講義形式で著したものです。サブタイトルの「貧困学」とは、貧困問題を統計的な数字だけではなく、日々の暮らしといった小さな事を多視点から捉えることを意味します。
貧困や災害といった極限状態にあればあるほど、多くの視点で物事を考え、向き合っていくことが重要になってきます。私たちは画一的に動くのではなく、あらゆる人々の存在を認め、個々がそれぞれ何ができるかを考えていかなければならないのです。
貧困地域に生きる人々と生活を共にした著者が提唱するだけに、実にリアルで、説得力があります。
本書は、スラム編、路上生活編、売春編の三部構成、全十四講で構成されています。路上生活者の性生活など、面白おかしいエピソードが散見されるのですが、決して不真面目な感じはありません。むしろ、貧困の中にもごく普通の人としての営みがあることを、改めて認識します。
ただ、本書を読むと、ドキュメンタリーでは窺い知ることのできない、真実の貧困問題を発見することになります。物乞いに対する喜捨というシステムが、福祉制度の変わりとして人々の最低限の生活を保障していること、イスラームの一夫多妻制が、困っている女性を助けるためのアッラーの教えであることなど、初めて知ることが多いですね。路上の生活者が次から次へ子供を産み貧困を連鎖させたり、多くの貧困者が紛争地域へ出稼ぎに行き命を落としていることなど、悲しい実態も明らかになります。
著者の『レンタルチャイルド』に詳しいのでしょうが、このレンタルチャイルドの問題は、本書でいちばん胸が痛くなります。物乞いの稼ぎが良くなることから、路上生活者の子供を(時には誘拐して)レンタルする商売が成り立っていると言います。大きくなったレンタルチャイルドは、盲目にするなど人為的に障害を負わせ、物乞いをさせることも横行しているのです。本書の概要だけで、自分はページをめくる気が萎えてしまったので、『レンタルチャイルド』は、とても読む勇気がありません。絶対貧困にある絶対悲劇です。
売春で子供を生んでしまった売春婦の話は印象的です。子供らに自分の仕事場の手伝いをさせることで、その仕事=売春を憎み、間違った道に行かないようにしていると言います。表層的なことだけでは分からない愛情が、ここにあります。「貧困学」は、確かにものの見方を変えてくれるようです。
「遠い国の出来事」として見て見るふりをするのではなく、我が身に降りかかってくる問題として受け止め、行動していくことです。それが、これからの時代を生きる私たちの義務なのです。
本書を読んで、著者のアツイ思いにすっかり感銘してしまったようです。