【本の感想】小杉健治『原島弁護士の愛と悲しみ』

本の感想 小杉健治『原島弁護士の愛と悲しみ』

小杉賢治のデビュー作『原島弁護士の愛と悲しみ』(旧題『原島弁護士の処置』)を含む初期短編集です。

第41回日本推理作家協会賞受賞作『絆』で見せた原島弁護士の鮮やかな手腕に感動し、本書を手にとった次第。翻訳小説のような衝撃的などんでん返しではないのですが、どれも、日本的な情感溢れる、ヒネリの効いた作品です。   

本書に収録されている以下の5作品は、著者の以降の活躍を予感させるでしょう。

■原島弁護士の愛と悲しみ
国選弁護人として殺人事件の弁護を引き受けた原島。被告人は原島の妻子を轢死させた過去をもつ男でした。

精神的な葛藤を経て導き出すこたえは何か、という重厚な展開を期待していましたが、これは、はずれ。正義の解釈次第ではあるのですが、自分としては、やるせない結末。解説にあるとおり、”愛”や”悲しみ”を感じさせないので、改題は疑問ですね。何かの記録を読んでいるような文体も気になるところです。

■赤い記憶
刑事と被疑者の立場でで再会した幼馴染みの二人。この邂逅が、刑事を、幼い頃に起きた殺人事件と、その悲しい真実へ導いていきます。

自分が本書で好きな一編。著者のその後の作品に見られるように、謎が氷解したときの、せつなさという残渣が印象的です。これは一読をお薦めしたいですね。

■冬の死
恋人の死、上司の死、恋人の兄の死。一年たらずの間に起きた3つの死をめぐる謎。

一旦、解決をみるかにみせて、新たな解釈を提示します。真実のさらに向こう側にある愛の姿が余韻を残す作品です。

■愛の軌跡
恋人の轢き逃げ事故の身代わりとして自首をした女。刑務所の中で、男に見捨てられたことを悟ったとき、女は事故の真相を語り始めます。

これこそアクロバチックというのでしょう。相当、ヒネリが効いています。思わず、唸ってしまう復讐譚。好き嫌いは別として、傑作であることは確かです。

■牧原博士、最後の鑑定書
病死した精神鑑定人のノートに残された悔悟の記録。彼が最後におこなった鑑定は、はたして正しかったでしょうか。

精神疾患に関する難しいテーマを扱う作品です。へたをすると物議を醸してしまうのでしょうが、読み物として仕上げている作者の手腕がひかります。