【本の感想】小杉健治『原島弁護士の愛と悲しみ』
小杉賢治『原島弁護士の愛と悲しみ』(旧題『原島弁護士の処置』)は著者のデビュー作を含む初期短編集です。
日本推理作家協会賞受賞作『絆』で見せた原島弁護士の鮮やかな手腕に感動し、本書を手に取った次第。翻訳小説のような、衝撃的などんでん返しは見られないのですが、どれも、日本的な情感溢れる、ヒネリの効いた作品です。
本作品集に収録されている以下の5作品は、著者の以降の活躍を予感させるでしょう。
■原島弁護士の愛と悲しみ
国選弁護人として、殺人事件の弁護を引き受けた原島。被告人は、原島の妻子を轢死させた過去を持つ男でした。
精神的な葛藤を経て導き出す答えは何か、という重厚な展開を期待していましたが、これはハズレ。正義の解釈次第ではあるのですが、自分としては、やるせない結末が待っていました。解説にある通り、”愛”や”悲しみ”を感じさせないので、改題は疑問ですね。何かの記録を読んでいるような文体も気になります。
■赤い記憶
刑事と被疑者の立場で再会した、幼馴染みの二人。この邂逅が、刑事を、幼い頃に起きた殺人事件と、その悲しい真実へ導いていきます。
自分が本作品集で好きな一編です。著者のその後の作品に見られるように、謎が氷解したときの、せつなさという残渣が印象的。本作品は、一読をお薦めしたいですね。
■冬の死
恋人の死、上司の死、恋人の兄の死。一年たらずの間に起きた3つの死をめぐる謎。
一旦、解決をみるかにみせて、新たな解釈を提示します。真実の更に向こう側にある、愛の姿が余韻を残す作品です。
■愛の軌跡
恋人の轢き逃げ事故の身代わりとして、自首をした女。刑務所の中で、男に見捨てられたことを悟った時、女は、事故の真相を語り始めます。
これこそアクロバチックというものでしょう。相当、ヒネリが効いています。思わず、唸ってしまう復讐譚。好き嫌いは別として、傑作であることは確かです。
■牧原博士、最後の鑑定書
病死した精神鑑定人のノートに残された、悔悟の記録。彼が最後に行った鑑定は、果たして正しかったのでしょうか。
精神疾患に関する、難しいテーマを扱う作品です。下手をすると物議を醸してしまうのでしょうが、読み物として仕上げている著者の手腕がひかります。