【本の感想】トマス・H・クック『蜘蛛の巣のなかへ』

本の感想 トマス・H・クック『蜘蛛の巣のなかへ』

2005年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第10位。

自分は、その時々の精神状態により、ズボっとはまる作家がいます。

そうなると、しばらくその作家の作品ばかり読んで、酔いしれてしまうのです。ネガティブすぎる作家トマス・H・クック(Thomas H. Cook)(作品がネガティブすぎるのか)もひところ随分読みました。確か仕事が忙しくてテンパってた頃。世の中、悪いことはいっぱいあるよね、とクックを読んで気持ちを沈静化していたんだと思います。 

『蜘蛛の巣のなかへ』(Into the Web)は、ちょうど卒クックをした後に刊行された作品です。今は精神的には安定状態ですが、未読の作品が増えてきてしまったので、久々に手にとってみました。

寄宿学校の教員 ロイ・スレータは、父ジェシーの余命が残り少ないことから、20数年ぶりに帰郷しました。故郷には、殺人事件を起こしたあげく自殺した弟アーチー、そして将来を約束しながら結ばれることのなかった恋人ライラとの苦い想い出があります。過去のしがらみから家族を持つことを嫌うロイ。しかし、ロイはライラと再会したことをきっかけに、徐々に過去に隠された真実と向き合うことになるのでした。 ・・・

愛の無い結婚をし、いつも家族の前で不機嫌だった父。ロイは、幼い頃から父とそりがあいません。父が死を目前としながらも、ロイを認めていないことを思い知ります。そして、ライラは、結婚して故郷を出ることを約束しながら、突然、約束を反故にした理由をいまだに語ろうとしません。

帰郷したロイは、過去に囚われた人々を前に、閉塞感を味わっているようです。権力が支配し、差別がまかり通る故郷の色褪せた風景。故郷を飛び出すことだけに望みをつないだロイが、周囲から受ける拒絶。冒頭からじわじわと重苦しさがのしかかってきます。

アーチーの死に謎があることを知ったロイは、父に促されるまま、過去を紐解いていきます。そこには、街を牛耳る元保安官ウォレス・ポーターフィールドの影が見え隠れしていました。アーチは本当に人を殺したのか。そして、アーチーは本当に自ら命をたったのか。

ロイが調査をすすめるうち、父の過去、ライラの過去が明らかになります。少しずつ謎が提示され、読者を引っ張っていくストーリ展開は、クックの真骨頂です。人の暗い側面を緻密に描いていくので、作品全体がどんよりしているのもクック節。すれ違う思いが、多くの不幸をうんでいくパターン。

あぁ、虚しい、うっとおしい ・・・

久々に読んだクックですが、この湿度の高さがたまらなく懐かしいのです。

しかし、これまでのクック作品と決定的に違って、ラストに微かな希望の光が瞬いてしまいます。自分は、救いなし、と徹底的にブルーにしてくれるクックがお気に入りではあるのだがなぁ。