【本の感想】ドロシー・ユーナック『二度殺された女』

ドロシー・ユーナック『二度殺された女』(原著)

1988年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門第10位。

ドロシー・ユーナック(Dorothy Uhnak)『二度殺された女』(Victims)(1986年)は、ひとつの殺人事件を違う角度で追いかける女性刑事とジャーナリストの姿を描いたミステリです。

閑静な住宅街で発生した女性の刺殺事件。捜査担当刑事のミランダ・トレスは、警察上層部の要請により、コラムニスト マイク・スタインと行動を供にすることとなります。スタインの目的は、助けを求める女性の声に耳を塞いだ住人たちの罪を公にすることです。犯人逮捕を最優先とするミランダは、捜査の過程で、被害者が人違いで襲われたことに気づき始めます。そして、ミランダは、思いもよらぬ大きな陰謀を知ることになるのでした・・・

誰も手を差し伸べることがなかった結果、女性は死に至ったと考えるスタイン。ピューリツァー賞受賞の過去を持つスタインは、殺人犯よりも住人たちの行動に重きを置き、『二度殺された女』の著述に熱意を傾けます。離婚問題にゆれるスタインは、再度、ジャーナリストとしての栄光を掴もうとするのです。一方、正義こそが自身の生きる支えであるミランダは、果敢に事件の真相を突きとめようとします。

それぞれの強い信念が二人を結びつけていくという、ありがちな展開に多少げんなりしてしまうかもしれません。しかし、反面、ミランダの孤立感が徐々に際立ってくるため、先が気になり目が離せなくなります。真相を探るうちに、周囲の人々から煙たがられるようになるミランダ。スタインも例外ではありません。そして、二人は孤立無援の状態に陥ってしまうのです。

ストーリーの進行につれて俗物さを表していく登場人物たち。本作品は、そんな中でも、孤高の輝きを放つ女性刑事の生き様を活写していきます。

残念ながら、話を大きくしてしまったがゆえに、ラストは虚しさが尾を引いてしまいます。世の中そんなものだと思いつつも、すっきりさせてもらいたかったのが正直な気持ちです。 

(注)読了したのは文春文庫の翻訳版『二度殺された女』で、 書影は原著のものを載せています。