【本の感想】高根正昭『創造の方法学』

高根正昭『創造の方法学』

高根正昭『創造の方法学』は、目からウロコの啓発本 苅谷 剛彦『知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ 』のリーディング・ガイドで紹介されていたの書籍です。

著者は1963年スタンフォード大学コミニュケーション学部、カリフォルニア大学バークレー校 社会学部へ留学し、国内の平和運動に尽力したという経歴の持ち主。留学中の厳しい業績主義を目の当たりにして、日本の模倣的な態度を排し、創造の力を重視する西洋の伝統を取り入れるべきだという主張から論理構築の方法論を展開します。

何せ30年前の書籍ですから、コンピュータ・パンチカードを使って多変量分析をするなど、道具立ては隔世の感が否めません。しかし、著者の思想の核となる所は、些かも古びていません。むしろ、曖昧なまま使用している言説をすっきり整理できるので、論理思考の初学者にも最適な読み物となっています。

著者はまず、問題解決のための基本的な要素とは、「原因」と「結果」とを明瞭に定めて問題の論理を組み立てる方法とし、この因果関係に関する二つの要素の論理的な関係を「仮説」と定義します。「仮説」を立てたものは、次にその「仮説」を経験的事実に合わせて、テストしなければなりません。この頭の中の映像と、現実の世界の突合せで正確な像を描く過程を「検証」としています。

なんとなく使ってしまう「仮説」を立ててとか、「仮説」を「検証」してという語彙の本質が明らかになります。ここをかっちり頭に入れておけば、問題に取り組む姿勢にブレは少なくなるでしょう。

「原因」と「結果」の法則=因果法則、1.原因(独立変数)の先行、2.原因(独立変数)、結果(従属変数)の共変、3.他のすべての変数の統制は、『知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ 』でも参照されているのですが、ごく簡単なフレームワークと共にに記述されていて本書の方が分かり易いすね。3についての観察方法=実験群と統制群の変化の比較は、語彙そのものは難解なのですが、例示に具体性があるので、理解を妨げることはありません。本書では、その他いくつかの観察方法としてのテクニックが紹介されています。

「概念」についての記述も興味を惹かれます。著者は、「概念」というサーチライトで照らされた事物を「事実」として認識すると言います。つまり、「概念」がなければ「事実」はないということです。見えていない部分(本書では、残余カテゴリーという)は、「概念」によって(つまりサーチライトの当て方によって)、「事実」に変化します。「概念」を思考や経験的世界の働きかけで修正したり、創出することが人間の知的創造にとっては重要だと説きます。そして、抽象と経験の間の往復を繰り返すことで、骨の太い視野を獲得できるとするのです。

本書は、読者によって興味を引く箇所が異なるでしょう。自分は、方法論そのものよりも、頭の中をスッキリさせてくれる明快な論述に感銘を受けました。精読に値する本だと思います。

本書の結びの言葉に、著者の主張が集約されています。

科学における知的創造とは結局、自由に抽象と経験の間の循環を行う知的活動のことなのであろう。そして知的創造のための方法とは、科学の基本原理に合致した広い意味での調査と研究を行うための、ルールに他ならないのである