【本の感想】ジョン・ヴァーリイ『へびつかい座ホットライン』
ジョン・ヴァーリイ(John Varley)『へびつかい座ホットライン』(The Ophiuchi Hotline)(1977年)は、著者の未来史<<八世界>>が舞台のSF作品です。
本作品の解説によると、この未来史は、「2050年の異星人による地球侵略から三、四世紀後の時代を中心とし、主要舞台となる<<八世界>>とは、水星、金星、月、火星、タイタン、オベロン、トリトン、それに冥王星」という設定です。最初からこの世界観がつまびらかにされているわけでないので、読み進めながらなんとなく理解していくことになるでしょうか。
異星人に駆逐され<<八世界>>に拡散した人類は、へびつかい座70番星から送られてくる謎のメッセージの恩恵を受け、独自の文明を築いています。メッセージを解析することによって、遥かに進んだ未知の技術を手に入れることができるのです。
本作品の主人公 生命工学の科学者リロは、このメッセージをもとに遺伝子の改変を試みたため、死刑囚として<人類の敵の終末施設>に囚われています。異星人の殲滅を目論むトイード元大統領は、死刑執行を待つばかりのリロに、ひとつの提案を持ちかけます。それは、クローンを身代わりとして命を救うかわりに、異星人に対抗するための研究をするというものでした。トイードからの提案を了承したリロは、木星の月ポセイドンに送り込まれますが、他の科学者たちを巻き込み脱走を計画するようになります・・・
幾度となく脱走に失敗し命を落とすリロは、クローンとして甦り、またまた脱走を繰り返します。リロを葬り去るのも、オリジナルが同じ男女のクローンたち。クローン技術が発達した未来世界では、死とは、遺伝子が全て抹消されることです。死生観が変わってしまった未来においては、一個の肉体の死に意味はありません。自分は、生と性への執着が失われた世界に薄気味悪さを感じます。足元が高所でグラついている感覚です。本作品は、人の生とは本来何であるかとい問いかけなのではないでしょうか。
リロがメッセージの発生源に辿り着いたとき、クライマックスが訪れます。人類に求め始めたメッセージの対価とは何か。そして、秒読み段階に入った人類の運命は如何に。リロが理解に達した時、すべてのクローン・リロたちの意識が集合し、時間と空間を飛び越えていきます。
本作品には、ブラックホールハンターといいった面白いアイディアが見られるのですが(この世界はブラックホールのエネルギーが利用できるのです)、三部作の第1作だからなのか、どうにもすっきりしません。第2作の『スチール・ビーチ』を読んでみましょうか(なんと!、第3作は翻訳されていません)。