【本の感想】トニイ・ヒラーマン『死者の舞踏場』
1974年 エドガー賞受賞作。
トニイ・ヒラーマン(Tony Hillerman)『死者の舞踏場』(Dance Hall of the Dead)は、ナヴァホ族警察警部補 ジョー・リープホーンが主役のシリーズ作品で、処女作『祟り』に続く第二弾です(『祟り』は希少本で読めておらず)。
ミステリとはいえ、アメリカ合衆国先住民族、いわゆるネイティブ・アメリカンについて知識が乏しいと、味わいはいまひとつでしょうか。アニミズムやシャーマニズムが根底に流れているのですが、例えば呪術や祭祀に関する独特なワードを目にしても雰囲気しかつかむことしかできません(ミステリを読みながら調べものをするのもどうかなと)。本来ならばシリーズを読み進めながら理解を深めていくタイプの作品なのだと思います。
ズニ族の12歳の少年エルネスト・カータとナヴァホ族の14歳の少年ジョージ・ボウレッグスが行方不明となり、リプホーン警部補が捜査に駆り出されます。ほどなくしてエルネストは死体となって発見されますが、ジョージの行方は杳として知れません。少年らの足跡を辿るうちヒッピー・コミューンとの関わりや、遺跡発掘現場からの窃盗事件が明らかになっていきます。そして、リプホーンは、第ニの殺人 ジョージの父 ショーティ・ボウレッグスの死体を発見し ・・・
FBI捜査官や麻薬取締官が絡んできて、事件に対応する捜査側の人間模様は複雑さを増します。ただし、リプホーンに指示されたのはジョージの確保のみ。捜査の進行とともに、読者は白人とネイティブ・アメリカン、ズニ族とナヴァホ族の暗黙の階級差を伺い知ることになるでしょう。
ナヴァホ族でありながらズニ族の魔術師を目指していたジョージ。ジョージの行動を予見し、あと一歩まで迫るリプホーン。ところが、リプホーンは銃撃されて ・・・ と続きます。大自然に生きる野生の獣のような追跡行は、なかなかの見せ場ですね。概ね物静かに展開する本作品のクライマックスです。
さらなる悲劇を経たラストで、リプホーンが全ての謎を解き明かすのですが、ネイティブ・アメリカンであるがゆえのやるせなさを伴います。この締めくくり方に余韻をみるかどうかで評価が変わってしまいそうですね。
本作品ではリプホーン以外のキャラクターがたっておらず、今後の展開に期待することになります。なお、本シリーズはリプホーン&チー シリーズといわれていますが、相棒のチー刑事は本作品には登場していません。シリーズ作品があまり翻訳されていなし、翻訳されていても絶版状態なので、読み進めることはしないだろうなぁ。
(注)読了したのはミステリアス・プレス文庫の翻訳版『死者の舞踏場』で、 書影は原著のものを載せています。