【本の感想】神林長平『戦闘妖精・雪風(改)』
評判を聞いて、いつか読もうと思いながら、なかなか手に取らない作品があります。第三世代SF作家 神林長平のライフワーク(?)『戦闘妖精・雪風』もそのひとつ。SFマガジンの連作短編を文庫としてまとめたのが1984年の出版だから、30年以上も前の作品ということになりますか。
『戦闘妖精・雪風<改>』は、2002年に第2部『グッドラック―戦闘妖精・雪風』に合わせて改訂されたものです。OVA化もなされているし、興味はなくともタイトルだけは聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
地球南極点にあらわれた巨大な紡錘形の超空間。そこは異性体の地球侵略用<通路>でした。異性体に対抗するため人類は、<通路>をくぐりぬけた惑星・フェアリへ地球防衛機構の主戦力FAF(フェリ空軍)を配備します。以来、30年にわたる人類と異性体の戦闘は、拮抗状態を保っているのでした。FAF・特殊戦第五飛行戦隊 深井零は、戦術戦闘電子偵察機(スーパーシルフ)雪風を駆り、<特殊戦>の戦士として戦闘に参加します。<特殊戦>に下された至上命令は、最前線で情報を収集し、友軍を見殺しにしてでも帰投すること ・・・
人類が未だ目にしたことのない異性体。惑星・フェアリで異性体との戦闘に明け暮れる人々の物語が、非情かつ冷徹なパイロット深井零と愛機 雪風を中心につづられていきます。各短編に通底しているのは、人間とは何か、人は何のために戦うのかとういう形而上学的なテーマです。人間=深井零と機械=雪風の関係性の変化から、人間の存在意義にまで踏み込んみます。短編を読み進めていくと異性体の存在や思考がおぼろげながら見えるのだけれど、徐々に人類を超えたもの同士の戦いを予見させる展開になります。
機械に近く非人間的という深井零のキャラクターが面白いですね。善でも悪でもなく、雪風とともに<特殊戦>を遂行するためだけに生きている男。「Ⅳ インディアン・サマー」で、同僚の死に見せる深井零の人間的な側面には違和感ありだったけれど、所詮、人間は人間でしかないという、本作のラスト「Ⅷ スーパーフェニックス」への布石とすると、納得はできますか。
長引く異性体との戦闘で、地球の側では戦闘自体が忘れらはじめているという設定も戦いの意義を問うのに効果的です。強大な軍事力が自立しないよう食料の自給自足が禁止されているなど、政治的な背景を含めて世界観がきっちりと確立しています。本作品は、第2部、第3部『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』と、引き続きどっぷり嵌りたくなる力のある作品です。
アクションシーンはスピード感が満載ですが、テクニカルタームなど、細かいことを気にしているとなかなか先に進みません。
ガンラインは水平より上を向いている。このままでは目標の上を射つことになる。
不可知領域
零はトゥブレーキを踏み込み、スロットルをMILへ上げる。すさまじい推力に抵抗して機体を静止させるために、雪風の前脚のショックストラットが縮む。機首が沈みこみ、雪風はニーリングの姿勢をとった。
雰囲気で満足できるかどうかが、本作品を楽しむ秘訣だと思います。20代の頃の自分は、一字一句理解したいタイプだったので、その頃読んでいたなら悶絶していたかもなぁ。
本作品が原作の、OVA『戦闘妖精雪風』はこちら。