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【本の感想】アル・サラントニオ 編『999(ナイン・ナイン・ナイン)』
アル・サラントニオ(Al Sarrantonio)『999(ナイン・ナイン・ナイン)』(999: New Stories of Horror and Suspense)(1999年)は、ホラーの第三黄金時代を築くという壮大な目的をもった全3巻のアンソロジーです。
第1巻『妖女たち』は、小難しい作品が多いですね。怖くないのはモダンホラーの名残でしょうか。
面白いのは、キム・ニューマン「モスクワのモルグにおける死せるアメリクァ人」だけです。(次点は、ジョイス・キャロル・オーツ「コントラカールの廃墟」、トマス・M・ディッシュ「フクロウと子猫ちゃん」)
■「モスクワのモルグにおける死せるアメリクァ人」
アメリカから、旅行者を装った自殺志願者により、ソビエト連邦に持ち込まれた細菌兵器は、ゾンビ=アメリクァ人を増殖するための細菌兵器でした。モスクワの死体置場で、あるものはアメリクァ人の標本研究を、あるものはラスプーチンの頭蓋骨から人体の復元ををおこなっており ・・・
その他の作家は以下のとおり。
スティーヴン・キング/ニール・ゲイマン/T・E・D・クライン/チェット・ウィリアムスン/アル・サラントニオ/ティム・パワーズ/ベントリー・リトル/エリック・ヴァン・ラストベーダー
キングが期待したほどでもないのが残念です。
第2巻『聖金曜日』は、『妖女たち』よりわかりやすいのですが、これまた怖くありません。
面白いのは、ナンシー・A・コリンズ「ナマズ娘のブルース」、エドワード・リー「ICU」(次点は、エド・ゴーマン「アンジー」)。ディヴィッド・マレル「リオ・グランデ・ゴシック」は、100頁の中篇ですが、ホラーという感じが全くしません。
■「ナマズ娘のブルース」
ギターと歌の名手だが、うだつが上がらないホップ。ミシシッピ川の桟橋で、歌をうたっていると、川からナマズ娘があらわれました。歌をうたうと、ナマズ娘が金塊を持ってくるようなり ・・・ ラストが傑作!
■「ICU」
病院で目覚めたフランキーは、片手、片足を失っていました。警官との銃撃戦で負傷したのです。命びろいした幸運を喜ぶフランキーでしたが ・・・
その他の作家は以下のとおり。
F・ポール・ウィルスン/ラムジー・キャンベル/P・D・カセック/リック・ホータラ/ピーター・シュナイダー/ジーン・ウルフ/エドワード・ブライアント/マイケル・マーシャル・スミス
第3巻『狂犬の夏』は、 ミステリぽい作品あり、ファンタジーぽい作品ありと、シリーズの中では幅が広いですね。
面白いのは(というより、これしかない)、ジョー・R・ランズデール「狂犬の夏」。ウィリアム・ピーター・ブラッティ「別天地館」は180頁ほどの中篇ですが、期待はずれに終わりました。
■「狂犬の夏」
1931年 テキサスの夏。13歳のバリーは、妹のトムと、森の中で黒人女性の殺害された死体を発見します。バリーが伝説の山羊男のしわざと考えたこの事件は、連続殺人事件に発展していき ・・・キング「スタンバイ・ミー」、マキャモン「少年時代」を彷彿させます。この作品だけは読む価値ありです。 後に『ボトムズ』として長編化され、MWAを受賞しました。ランズデール マニアは必読でしょう。
その他の作家は以下のとおり。
トマス・リゴッティ/スティーヴン・スプライル/トマス・F・モンテルオーニ/デニス・L・マッカーナン
(注)読了したのは創元推理文庫の翻訳版『999ー妖女たち』、『999ー聖金曜日』、『999 狂犬の夏』で、 書影は原著のものを載せています 。
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