【本の感想】山本兼一『利休にたずねよ』

山本兼一『利休にたずねよ』

2008年 第140回 直木賞受賞作。

山本兼一『利休にたずねよ』は、美の求道者 千利休の生涯を描いた作品です。

天下人 豊臣秀吉に切腹を命ぜられたその理由に諸説あるからか、戦国武将ではないにも関わらず、茶人千利休を登場させる歴史小説は多いように思います。作品によって、千利休のキャラクターが、鼻もちならない愚物だったり、孤高の美の体現者だったりと様々です。直木賞受賞作では、1936年 第3回 海音寺潮五郎『天正女合戦』、1956年 第36回 今東光『お吟さま』(もっとも、これらは利休の娘 お吟が主役なんですが)。

本作品は、千利休の切腹前夜 70歳から、魚屋の道楽息子だった19歳の頃へ、時を遡るかたちで物語が展開します。冒頭の、利休が殺した女という独白、そして人の目に触れることすら忌避する緑釉の香合の謎が、ラストまで読者を引っ張っていくことになります。

各章では、千利休と彼の周辺の人物が語り手となって、千利休という美の巨人が活写されていきます。秀吉が羨望し、嫉妬し、ついには潰えさせようと決意した超絶、唯一無二の美的感覚。五感に訴えるが如くの著者の描写力には脱帽です。

わたしの選んだ品に、伝説が生まれます。

本作品には、秀吉の他、織田信長、徳川家康、石田三成、細川忠興、上杉景勝、古田織部、黒田官兵衛等々が、千利休に敵対するもの、あるいは、心を寄せるものとして、時々の歴史上のエピソードを交えながら登場します。歴史小説好きにはたまりません(石田三成は敵役で、実に厭なヤツのように描かれています)。

千利休が死せる運命であるのは歴史的な事実です。その最期をどう見せるかが作家の腕の見せ所ですね。美に関しては、決して自身の信念を曲げなかった千利休。美に殉じようとする姿が鮮烈です。冒頭の謎が氷解する若き日にも、その萌芽がみられます。

千利休 死の報を受けた妻 宗恩の思いの丈が募る瞬間に、くらりときてしまいました。あえて、結末から読み返せば、夫婦愛の物語とも受け取れます。映画では市川海老蔵が千利休役です。役柄的にはぴったりかな。

本作品が原作の、2013年公開 市川海老蔵、中谷美紀、大森南朋 出演 映画『利休にたずねよ』はこちら。

2013年公開 市川海老蔵、中谷美紀、大森南朋 出演 映画『利休にたずねよ』