【本の感想】井上夢人『ラバー・ソウル』

本の感想 井上夢人『ラバー・ソウル』

いくつか読んだ岡嶋二人作品で、今本棚に残っているのは『99%の誘拐』だけ。読んでいるときは楽しいのですが、読了してしまうと後に残るものがあまり無いということになるのでしょうか。深刻なテーマであっても、わりと淡泊な書き方をする印象が強くあります。

そういうわけで、岡嶋二人の執筆担当であった井上夢人作品は、今まで手に取ることがありませんでした。

本書『ラバー・ソウル』は、The Beatlesのアルバム『Rubber Soul』をモチーフとしたミステリです。

章立てがアナログ盤の『Rubber Soul』の曲名順となっていて、それぞれの章の内容が、詩とリンクするようになっています。『Rubber Soul』の発売時(1965年)にシングルでリリースされた「Day Tripper」と「We Can Work It Out」(恋を抱きしめよう)を、ボーナストラックとして本書の章に組み入れているのがニクイ演出だったりします。

自分は中・高校時代『Rubber Soul』をしこたま聞き込んだので、この仕掛けだけでも感涙ものなのだけれど、くわえてミステリとしてもすばらしい出来です。

結論から言ってしまうと大傑作。

音楽雑誌に評論を寄稿するビートルズマニアの鈴木誠は、雑誌の撮影中に発生した事故で呆然自失のモデル 美縞絵里を自宅まで送り届けることにななりました。容貌にハンディキャップを背負っている誠は、初めて自分の車に乗った女性 絵里に好意を寄せてしまいます。絵里のことが頭から離れられない誠。誠は絵里に気づかれないよう、彼女を監視しはじめます。除々にエスカレートしていく誠の行動。ついに、誠は絵里の男友達を殺害してしまうのでした。 ・・・

ストーリーは、警察の取り調べと思しき関係者の供述に、誠の視点の描写が挿入されるかたちで展開していきます。病気のため怪異な容貌となった誠が、それを逆手に取りながらストーカー行為を正当化していく様は、背筋が寒くなってしまいます。こういう理屈で、人は人を追い込んでいくのかという恐ろしさです。苛立ちに似た怒りさえ感じます。

本書は、ソシオパスものか ・・・

いやいや、全く違います。

ソシオパスものとしても面白くはありますが、それだけでは傑作とはいきません。秀逸なのはウルトラ級のどんでん返し。ラストに近くなって、実に悲しいものがたりに変わっていきます。中盤までとの落差が大きいだけに、強烈な衝撃を感じるでしょう。あざとくもありながら、ホロリとさせてくれるのです。全16曲を奏でて『Rubber Soul』の意味が、ようやく明らかになります。実に心に染み入る作品です。

「Norwegian Wood」(ノルウェーの森)の詩の内容を、放火男の解釈で本作品とリンクさせたり、絵里の高校時代のストーカー事件を、ボーナストラック「Day Tripper」として挿入しているのも面白いですね。自分の見落としている仕掛けも相当ありそうです。著者は、なかなかのマニアなんですね(ペンネームはThe Beatlesの曲から取っていたとな!)。