【本の感想】デイヴィス・グラッブ『狩人の夜』

デイヴィス・グラッブ『狩人の夜』

右手指にLOVE、左手指にHATEのタトゥーを入れたパンクな輩(やから)の元祖がこの方。 デイヴィス・グラッブ(Davis Grabb)『狩人の夜』(The Night Of The Hunter)(1953年)の極悪人ハリー・パウェルです 。

本作品の舞台は、1930年、大不況真っただ中のオハイオ川流域の町。金物屋店主ベン・ハーパーは、金欲しさから1万ドルを強奪し、殺人を犯してしまいます。捕らえられたベンが裁判にかけられ、下された判決は死刑。妻のウィラは、9歳の息子ジョン、4歳の娘パールを抱え途方にくれます。

1万ドルの隠し場所について口を割らないベン。ウィラが聞き出そうとするに及んでベンは一層、頑なになるのでした。

ここで登場するのが件の、ハリー・パウェル。ベンと同房の犯罪者ハリーは、あの手この手で1万ドルの在りかを探るのですが、ベンは黙したまま死刑が執行されてしまいます。

出所したハリーの次なる作戦は、母ウィラを篭絡し、1万ドルの隠し場所を知っているであろう、ジョンとパールを懐柔すること。伝道師と偽り、ウィラ、そしてウィラが信頼するご近所のスプーン夫妻をとりこにしていきます。この手練手管をみよ!女性の心理を巧に操るハリー。ウィラは、ハリーとの再婚とともに隷属し、我が子さえも疎ましく思うようになります。パワハラ夫に依存する妻の図式の完成です。

新しい父親(つまりハリー)に親しみを覚え始めるパール。しかし、ジョンは、ハリーの真の顔を見抜いています。反抗的な態度を貫くジョンに、ウィラを含め周囲の人々は辛くあたり始めます。大人はわかってくれない系のサスペンスですね。ハリーの嫌がらせにへこたれないジョン。思うに任せない苛立ちがピークに達したハリーは、ついに強硬手段に ・・・ と続きます。

逃げ惑う幼い子供二人を執拗に追い回すハリー。このあたりは、ホラーも斯くやとばかりのハラハラドキドキの連続です。本作品がスティーヴン・キングに影響を与えたというのも納得。

手漕ぎボートで川を下り、からくもハリーから逃れたジョンとパール。辿りついたのは、ワケありな孤児たちと暮らす老婦人レイチェルの住処。安住の地を手に入れたジョンとパールですが、ハリーの執念は一向に収まらず・・・、と、ラストにかけてもう一度、盛り上がりをみせてくれます。

強盗殺人犯で死刑に処せられた父、悪党によろめいて支配されてしまった母。子供にとってはなんとも悲惨は物語です。本作品の面白さは、ハリー・パウェルの見た目を含めた個性と悪辣ぶりにつきますね。映画版では、ハリー役のロバート・ミッチャムの怪演(?)が話題です。

本作品が原作の、1955年公開 ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンターズ、リリアン・ギッシュ 出演 映画『狩人の夜』はこちら。

1955年公開 ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンターズ、リリアン・ギッシュ 出演 映画『狩人の夜』