【本の感想】デイヴィッド・ベニオフ『25時』

デイヴィッド・ベニオフ『25時』

ウェストサイド・ハイウェイの路肩に黒い犬が横たわっている。

自分は、本を読了する前に、それが原作となっているドラマなり、映画なりを見てしまうことを禁じ手としています。映像が面白くても、つまらなくても読む気が失せてしまうのです。でも、ごくたまに、そんな禁を破ってしまうことがあります。

デイヴィッド・ベニオフ(David Benioff)『25時』(The 25th Hour)(2002年)は、プロローグに引き込まれて、映像の方を早く見たくなってしまいました。

映画は、原作にストーリーがほぼ忠実で、これは!というシーンや、セリフは若干の修正はあるものの、そのままを映像として鑑賞することができます。映画ではわかりにくい心の動きを、原作の方で補完できるという、禁じ破って功を奏した稀有な例です。それだけ、原作も映画も良く出来ているのです。ただ、登場人物のイメージが映像によって固定されてしまったといううらみがありますか。

麻薬密売人のモンティは26歳。幼い頃消防士になることを夢見みていました。スポーツマンでハンサムなモンティは、高校生にして麻薬の売買いに手を染めてしまいます。誰もが認めるいっぱしの男。美しい恋人に、豪華なフラット、スポーツカー。有名クラブには顔パスです。ところが得意の絶頂は長くは続きません。突然の麻薬捜査官の訪問で終止符を打つことになるのです。

麻薬不法所持で7年の判決を受け、モンティは、明日収監されます。刑務所での過酷な日々を思い悲嘆にくれるモンティ。父、恋人ナチュレル、親友のジェイコブとスラッタリーは、モンティの別れの夜に集います。残された刻はあと24時間。 ・・・

海外ドラマや翻訳小説で知る限り、あちらの刑務所はハンサムな白人男性にとって、悲惨なところであるようです。本作品でも、死を選択肢のひとつとするモンティの憂鬱さが重くのしかかってきます。真冬のニューヨークの寒々とした空気感が、清々しくあるからこそ、一層、暗澹たる気分に拍車をかけるのです。

モンティが収監されることに動揺する人々。父は息子の金で商売を続けたことを悔やんでおり、高校教師のジェイコブと投資銀行トレーダーのスラッタリーは、友情を保ち続けていくことの困難さを感じています。ナチュレルはモンティの金で贅沢をしていたものの、どこかでホッとしている自分を発見します。プロローグで死の淵から救った犬のドイルだけは、モンティに対して真っ直ぐに親愛の情を示します。

本作品は、そんな登場人物たちが織り成す24時間の物語です。裏切りあり、すれ違いあり、友情の再発見ありの濃密な一夜。交わされる会話は、おしゃれすぎず、かといって野暮ったくもありません。いい頃合ですね。サイドストーリーもストーリー全体に厚みを持たせることに成功していると思います。モンティに懇願され、スラッタリーが心ならずもとった行動とは何か。それははたして友情の証だったのでしょうか。

本作品は、締めくくり方が特に素晴らしいですね。刑務所に向かう途中、街並みを眺めながらモンティが見たのは、白日夢? それとも、未来?

本作品が原作の、 2002年公開 スパイク・リー監督 エドワード・ノートン、フィリップ・シーモア・ホフマン、バリー・ペッパー 出演 映画『25時』はこちら。

2002年公開 スパイク・リー監督 エドワード・ノートン、フィリップ・シーモア・ホフマン、バリー・ペッパー 出演 映画『25時』

原作と映画で決定的に異なるのは、モンティのナチュレルへの感情でしょう。映画では、ナチュレルがタレ込んだのではないかという疑いにかられています。ここは、モンティの閉塞感がプラスされている点で映画の方が優っているように感じました。