【本の感想】山本敏晴『世界で一番いのちの短い国: シエラレオネの国境なき医師団』

山本敏晴『世界で一番いのちの短い国: シエラレオネの国境なき医師団』

西アフリカに位置するシエラレオネは、人口六百万人の共和制国家です。長引く内戦により、医療システムが崩壊して、ここに暮らす人々の平均寿命はなんと三十四歳。本書が刊行された2002年当時、シエラレオネ共和国は、世界でいちばん平均寿命の短い国だったそうです。

山本敏晴『世界で一番いのちの短い国: シエラレオネの国境なき医師団』は、MSF(国境なき医師団)としてシエラレオネ共和国に派遣された、著者の半年間の活動の記録です。紛争地帯のど真ん中で、いのちを救うために尽力する日本の医師の姿が、勇気と感動を与えてくれる  ・・・ はずなんだけど、性欲の処理の仕方のような下世話な話もあってちょっぴり笑えたりもします。肩肘張らずにさらさらと読めるところが本書のいいところなのです。

著者は、寝食を忘れた診療活動もさることながら、下痢や巨大ゴキブリと闘い、疫病の感染に恐怖し、スタッフのごたごたに巻き込まれたりと毎日が大変です。それでも国際協力への熱意を絶やさないのはどうしてなのでしょう。

国際協力に参加する方々は、皆が皆、人道的な活動に意欲を燃やす高邁な精神の持ち主かというと、そうでもないようです。旅行が好きだったり、外国語を勉強したかったり、外国人の恋人を求めていたりと理由は様々。著者はこういう動機を否定しません。「幸せになろう、生きがいを見いだそう」という行動原理に基づいているのだから、どういう理由でも正当なのだといいます。会社を辞めて国際協力に赴いた自分の知人は、理想とのギャップで早々と引き上げてきてしまいました。まだ若かったから、自己実現の方法が人それぞれなのだと気づかなかったのかもしれないですね(気づいても許せなかったのか)。

著者は、西欧的な押し付け = ピース・コロナイゼーションではなく、現地の人々と同じ視線で、未来に残すための教育重視の活動を目指しています。MSFの正規のミッションとは別に、休日返上で素人同然の現地のスタッフの教育を試みていきます。その国の人々によって医療が立ち行くこと、すなわちサスティナビリティ=継続できること の精神です。偽善ではなく本当に意味のある国際協力は何であるのか。著者は、この答えを求めてMSFに参加したのです。シエラレオネ共和国での活動をとおして、自身の信念を確認することが、著者の「生きがいを見いだす」ということなのでしょう。

与えるだけが国際協力ではありません。

彼らの目は死んでいない。哀れを誘うような様子などないし、誇りをもって生きていることが感じられる。

本書に掲載されているシエラレオネ共和国の人々の写真を見ると、これを実感することができます。

本書には、その他にいろいろ勉強になることが盛りだくさんです。

子供をいっぱい産む国では、母体を尊重するというプライトリタリゼイション=優先順位付け があること。
国際協力をする上での必要最低限のルールは、常に優先するのはチームの安全を確保すること。
NGOで活動するのは、国連がどの国も政府よりなので、紛争地帯では中立を保つのが難しいからであること。
NGOは原則、武装しないので、常に危険にさらされていること。
MSFは医療サービスのみを提供し(つまり水、食料を提供するわけでなない)、急性疾患だけを診断すること。
人々が薬を転売したり、いいかげんな服用をすることから耐性の強い病原体が増え続けていること。
そして、あまりに痛ましい子供兵の問題を抱えていること。 ・・・

悲惨な状況を目の当たりにして、手を差し伸べることができない場合もあります。国際協力の難しさをあらためて認識した一冊でした。

なお、本書は2002年の初版に文庫化にあたって加筆・改稿したものです。2011年には、平均寿命は四十七.八歳に延びたそうです。