【本の感想】村上龍『トパーズ』

村上龍『トパーズ』

村上龍『トパーズ』は、バブル絶頂期に出版されて、ベストセラーとして書店の店頭を飾っていたように記憶しています。当時、東京で働き始めた田舎もんとしては、この華々しい雰囲気に気後れして、どうにも手が出ませんでした。だいたい、村上龍作品は、中学生の頃『限りなく透明に近いブルー』を読んで、「エロ本じゃん!」という感想を抱いてから手に取っていないのです(殆ど理解できていなかったと思うけれど)。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

『トパーズ』は、12編からなる短編集で、それぞれはとても短い作品です。短くはあるのですが、1編読み終えるごとに疲労感が蓄積されていきます。エロチシズムの村上龍的な表現なのでしょうが、官能というより暴力に近いのです。グロテスクと言ってもいいでしょう。読み始めると、あまりに直接的な描写に、男の自分としても腰が引けてしまいます。

都会の夜と(一般的には)マニアックな性愛が、主役となる女性の視点で描かれています。脈絡のない思考の断片が入り混じった、モノローグが特徴的です。彼女らの行動原理に、肯定も否定も見つかりません。ただ現実があるのみ。

本短編集では、句読点のない長々とした文章が効果的に使われています。何かを感じ取ろうとするものを拒絶するかのように、現実を突き付けてくるのです。コーティングを剥がしていくと、最後の最後には、無垢な自分がありました・・・、とはなりません。そういう冷めた表現の仕方が、一層、現実を際立たせています。彼女らの行動を通して薄っすらと見えてくるのは、せいぜい、つながりへの希求になるでしょうか。現実というものの一つの捉え方として、理解はできます。

本短編集の終わりを飾る1編「バス」のみ、主人公が男性となっています。自伝的な要素が強そうですが、これだけポッカリと浮いてしまっています。穿った見方をすれば何とでも受け取れそうですが、大人しく本を閉じてしまいましょう。

出版当時に本短編集を読了していたらどうでしょう。ねちっこい性描写に圧倒されて、やっぱり「エロ本じゃん!」と思ったでしょうか。

なお、本作品は。村上龍ご本人が監督し、映画化されています。バブルと共に、こちらはハジケてしまったのか、評判は芳しくなかったようですね。

本作品が原作の、1992年公開 二階堂ミホ、加納典明、島田雅彦 出演 映画『トパーズ』はこちら。

1992年公開 二階堂ミホ、加納典明、島田雅彦 出演『トパーズ』
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