【本の感想】 佐瀬稔『金属バット殺人事件』
1985年 第38回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門 受賞作。
佐瀬稔『金属バット殺人事件』は、 昭和55年(1980年)に川崎市で実際に起きた尊属殺人をテーマにしたノンフィクションです。
この事件は、当時のセンセーショナルな報道のこともあって、今だに記憶に残っています。寝ている両親を金属バットで撲殺するという苛烈さは、まだ父親が絶対的存在であった少年の自分を混乱に陥れました。おそらく、自分の両親もそうだったのでしょう。暫くは、事件そのものに深く踏み込むことなく、その残酷さだけを話し合ったものです。
本書は、当時の関係者にインタビューをし、有識者の意見を踏まえながら、事件の真因を明らかにする試みです。被害者の出自まで遡って念入りに調査をし、事件を再現していくあたりが、推理小説形式との謂われなのでしょうか。
本書では、団塊の世代による育て方に問題ありとする結論が提示されます。物のない時代に育った親たちが、子供へ同じ思いをさせまいとした結果、甘えを助長させていると言います。
事件発生から40年経過した今日、自分は、それをもって、真因とすることに納得し難いものがあります。
今現在でも起きている尊属殺人の理由は、育ちでは片付けられない、もっと曖昧なもののように思えるのです。突然、スイッチが入ったかのように事件を起こす。そのスイッチの入り所を窺い知ることはできません。親の責任と、紋切り型で決めつけるには無理があるのではないでしょうか。
本作品については、刊行当時であれば、別な感想を持ったかもしれません。ただ、今現在においては新味もないし、説得力も希薄です。その時々を切り取るノンフィクションの宿命です。
本書の、緊張感のある文章表現や、事件発生に至るまでの迫力ある構成は、一気読みの力があります。著者が提示した事件の真因より、むしろ書物として、そちら方を見ていくべきなのかもしれません。