【本の感想】首藤瓜於『脳男』

首藤瓜於『脳男』

2000年 第46回 江戸川乱歩賞受賞作。
2000年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門第1位。

首藤瓜於『脳男』は、存在が脳の機能そのものである青年を主役に据えたサスペンスです。

連続爆破事件の容疑者 緑川のアジトに踏み込んだ茶屋警部ら警察は、緑川と取っ組み合いを演じていた男 鈴木一郎を確保します。事件について何も語らない鈴木。精神鑑定の要請を受けた精神科医 鷲谷真梨子は、鈴木には心が無いことを発見するのでした。鈴木は何者なのか。鈴木の本質に迫るべく、真梨子は、鈴木の過去を調べ始めて・・・

膨大なデータを持ちながら行動に結びつけることができない脳だけの存在、脳男 鈴木一郎。学習によって感情を理解するという非人間的な男が、真梨子が詳らかにする過去によって、徐々に魅力を帯びていきます。

この主人公のキャラクター設定の妙こそが、本作品の見所でしょう。人が人たる所以は何であるのか。著者の精神医療に関する造詣の深さが(と言っても門外漢から見る限りですが)、ストーリーに厚味を与え、哲学的な感慨を深めてくれます。

鈴木の出自が判明してからの後半は、ぐっとエンターテイメント性が高くなります。

心のない男 鈴木と逃亡中の連続爆破犯 緑川の関係は?
鈴木の目的は一体何なのか?

鈴木、茶屋、真梨子を巻き込んで、ハラハラドキドキの結末へ雪崩れ込みます。

残念なのは、端折られている部分があるように思えることです。謎めいた真梨子や茶屋といった主たる登場人物の背景が、途中、あっさりとまとめられてしまっているのです。応募作ゆえのページ数制限なのか、それとも、7年後に刊行された続編『指し手の顔』を想定してのことなのでしょうか。

ともかくも、ハズレが多い江戸川乱歩賞において、傑作に入る作品であることには間違いありません。

本作品が原作の、2013年公開 生田斗真、松雪泰子 出演 映画『脳男』はこちら。

2013年公開 生田斗真、松雪泰子 出演 映画『脳男』