【本の感想】ポール・アルテ『第四の扉』

ポール・アルテ『第四の扉』

2002年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第2位。
2003年 このミステリーがすごい! 海外編 第4位。

アラン・ツイスト博士初登場作品。

ポール・アルテ(Paul Halter)『第四の扉』(La Quatrieme Porte)(2002年)は、フランス人作家の手による英国本格ミステリです。

舞台は1950年代、英国はオクスフォード近郊の村。スティーブンス家、ダーンリー家、ホワイト家が複雑な人間関係を形成する、地縁の結び付きが非常に強い地域です。

奥方の自死で暗い影をおとすダーンリー家。 幽霊の出没が噂されるこのダーリンー家に、霊能者ラティマー夫妻が間借り人として越してきます。事件の起きる気配むんむんで、如何にもな設定ですが、不思議と深刻さを感じさせません。翻訳者の手腕もあるのでしょうけれど、本作品には牧歌的とも言える、緊張感を感じさせない独特の味わいがあります。

何者かに襲われたホワイト家のアーサー、その息子ヘンリーの失踪(数日後、同時刻に二か所で目撃されるという謎!)、ダーンリー家の降霊会に端を発した連続殺人事件・・・。登場人物から引き算をすると、事件の容疑者はどんどん絞られてくるのですが、さっぱり見当がつきません。 密室殺人のトリックが最大の難関です。 ヒントは、あるんですよ。ヒントはね。ほほぉ、だからこのタイトルですか、という。しかしながら、真相が判明する件では、なるほどねぇと頷くしかないのです。

著者がジョン・ディクスン・カーの熱烈フォロワーというのもあって、密室殺人やら降霊術やら、まさにカー作品のごとき怪奇趣味の世界がてんこ盛りです。しかしながら、カーの教義(?)を忠実になぞったというより、パロディっぽい緩さの方が際立っています。

本作品は、作品そのものの読ませ方が一風変わっていて、名探偵登場からの謎解き、そして最後には、あっと驚く捻り技を見せてくれます。フランス人作家が英国本格ミステリを創作したことも、異色と言えるでしょう。

アラン・ツイスト博士が登場するシリーズ作品を、読み通したくなる第1作です。その前に、ジョン・ディクスン・カー、およびカーター・ディクスンの有名作品は読んでおいた方が良いのかもしれません。

ちなみに、読了したのはハヤカワのポケミス版で、近所の文教堂にて著者サイン入りのものを衝動買いしたのでした。レアものに弱い自分ですが、これは手に入れて当たり!の一冊でした。