【本の感想】ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 』
ジェフリー・ユージェニデス(Jeffrey Eugenides)『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹 』(The Virgin Suicides)(1993年)の 舞台は、1970年代ミシガン州の田舎町(らしい)。
リズボン家の5姉妹 テレーズ(17)、メアリイ(16)、ボニー(15)、ラックス(14)、セシリア(13)は少年達の憧憬の的でした。ヘビトンボが空を茶色く染める6月、リズボン家で開かれたパーティの最中、セシリアは投身自殺を遂げてしまいます。
本作品は、少年達の一人である「ぼく」が、20年を過ぎ、ここから始まる事件を、当時の人々の証言などから物語として再構築した体裁です。セシリアの自殺から、4人の姉が尽く命を絶ってしまうまでの、リズボン家崩壊の1年間を描いていきます。
主役というべき姉妹の姿が、「ぼく」という語り手から形づくられているためか、不思議と深刻さが希薄な作品です。彼女らの心情が直接的に語られることはないのです。悲しい出来事を扱っているのだけれど、教訓めいた何かを訴求するものではありません。確かに、執拗ともいえる厳格な母親への反発や、セシリアの死以降、周囲との疎外感を強めていく姉妹の様子は見ることができます。ここから逃げ出したいという心の断片も窺えます。けれど、自らの命を断とうとする決定的な何かを知ることはできません。
読者の年代や、男女によっても受け取り方が違うのだろうけれど、自分には絵画的で寓話的、つまり絵本のような印象を強く残しました。
姉妹が死を選んだ原因について、語り手である「ぼく」は、「ぼく」なりの結論を提示します。ここは、読者が感じ取るべきものなのでしょう。そういう意味では、本作品は、リドルストーリーと言えるのかもしれません。
本作品が原作の、1999年公開 キルスティン・ダンスト、ジェームズ・ウッズ、キャスリーン・ターナー、ジョシュ・ハートネット出演 ソフィア・コッポラ監督 映画『ヴァージン・スーサイズ』はこちら。