【本の感想】野坂昭如『火垂るの墓』
1967年 第58回 直木賞受賞作。
ソ・ソ・ソクラテスか
プラトンか
二・二・二ーチェか
サルトルか
野坂昭如というと、テレビに出演していた印象から、ファイターのイメージが強くあります。物言いもさることながら、瞬間湯沸かし器的に怒りを爆発させる様は、観ているこちらにもやや緊張感をもたらしました。とんねるずや大島渚との悶着は、「ソ・ソ・ソクラテス」のCMソングぐらい良く知られています。
そんな野坂昭如の直木賞受賞作が『火垂るの墓』。何度もアニメで観ては、その度に、救いのなさに胸が締め付けられるような思いをしました。あの個性の強いおじさんと、作品の世界観がマッチせず、いつか読んでみようと思いつつ、今日に至ります。
ストーリーは、アニメの通りです。
空襲で母を亡くした中学生の清太は、四歳の妹 節子と共に、親戚の家を頼ります。しかし、小母さんの嫌がらせに我慢ができなくなった清太は、節子を連れて洞穴で暮らすことにするのでした。二人の生活は、食べるものも尽き、困窮を極めます。そして、節子は、徐々に衰弱し、命を落としてしまうのでした・・・
文字として読むと悲しいより辛いという印象です。著者は、飢えや痛み、体の具合の悪さを、これでもかというぐらいに詳細につづります。読点が殆どないクセの強い文章で、慣れるまで苦戦を強いられましたが、読み進めるうちに作品のトーンと絶妙にマッチしていることが分かります。蛍を集めて明かりにし、翌日、節子が死んだ蛍の墓を作る、有名なシーンはぐっときます。
本作品の淡々とした描写は、著者の言動とは乖離していません。アニメが、ストーリーは同じでも、別な印象の作品にしてしまったようですね。
その他の収録作品は、知己となった外国人夫妻にこびへつらう姿が戦後間もないニッポン人を象徴する『アメリカひじき』(紅茶の葉)、侘しく一人亡くなった養母の生きがいとは『焼土層』、幼い我が子を絞殺した女の理由『死児を育てる』、鑑別所に収監された少年たちの日常『ラ・クンパルシータ』そして退所した少年のその後『プアボーイ』です。『アメリカひじき』を除く5作品は、どれも底辺感に居たたまれなくなります。
1988年公開 高畑勲 監督 アニメ映画『火垂るの墓』はこちら。
言わずもがなの名作です。節子役の白石綾乃は、当時5歳だったそうですね。清太が持ち歩いているドロップの缶から、節子の骨がこぼれ落ちるシーンがとにかく悲しい・・・
2005年公開 石田法嗣、佐々木麻緒、松嶋菜々子 出演 終戦60年スペシャルドラマ『火垂るの墓―ほたるのはか―』はこちら。
2008年公開 吉武怜朗、畠山彩奈、松坂慶子 出演 映画『火垂るの墓』はこちら。
お母さん役は、松田聖子です。小母さん役の松坂慶子が、この役を渋ったそうで、なるほど意地悪っぷりが凄まじいですね。いくつかのエピソードが盛り込まれているのと、清太が死んではいない点が、原作と異なります。