【本の感想】ジョーナ・バーガー『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』

ジョーナ・バーガー『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』

ビジネス書の類を読んでいると、ためにはなる・・・しかし、それだけ、というものがあります。そういう時は、雑談ネタが増えたと納得させることにしているのでした。ジョーナ・バーガー(Jonah Bergre)『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(Invisible Influence The Hidden Forces That Shape Behavior)も、その類の本です。

本書は、副題「あらゆる行動を方向づける影響力の科学」とあるように、人は物事を決める時に、知らず知らず見えない影響力に左右されている、という主張を科学的な観点から繰り広げるものです。記載されている実証実験の内容とその結果は興味深いのですが、それをもってじゃあどうする?ってことになりますよね。本書のジャンルはサイエンスなので、例えば経済でこれをどう応用するといったことまでは深堀りしていません。まぁ、そっち寄りに行っちゃうと〇〇心理学みたいな胡散臭さを醸し出してしまうのでしょうけど。

人は、他人を情報源として利用し、時間と労力を節約しているという主張は、考え方としてはっ!とします。他人の真似をしているという罪悪感に駆られることなく、節約の方法なのだとポジティブに捉えれば良いのです。この主張を見て、自分は正々堂々、悪びれることなく他人を利用することにしました・・・利用された方の気分は、あまりよろしくはないでしょうけど。

本書には、ミラーニューロンに触れられているものの、ディープなサイエンスに関する記載はありません。誰もが目にする身近な例を引き合いに出して、そういえばそうだよね、と納得させてくれます。理系じゃなくとも本書は、苦にならないでしょう。

気づきを与えてくれた箇所を、以下に抜き出してみます。

模倣は交渉において、合意の形成を促進するだけでなく、交渉をする人が価値を生みだし、自分のためにもっと価値を求めることを可能にする。

交渉の席上で相手の模倣をしたことはありません。今度、やってみよう。価値を生み出してくれるのならば・・・

集団の意思決定では、しばしば同調やグループ内での調和を求める気持ちが、グループをよくない意思決定に導いてしまう、集団浅慮というものに影響される。

日本人は、皆がこうしているから、に敏感な国民性です。同調圧力にも滅法弱い。良い方にも、悪い方にも現れるのは、昨今の社会情勢から身に染みてよく分かります。

ほとんどの人は、自分ひとりだけで何かするのは嫌だと思うが、同じことする人があまりに増えると、次へ進んで別のことをしたくなる。

人はどこか個性的にありたいもので、差別化の感覚が脅かされると感じるときには、負の感情反応が起こる。

特に女性は、ファッションがかぶってくると嫌がりますね。

社会的影響力というのは、私たちを同一化と差別化のどちらにも押しやる。

そうそう、この頃合いが難しいのですよ。

アイデンティティを示すシグナルは、ものごとを流行らせるほうにも、すたれさせるほうにもはたらくといえる。

より一般的なところでは、アイデンティティのシグナルをうまくコントロールできれば、何かをかならず流行らせることができる上に、人気を維持させることもできる。

ここは経済に関わる記述です。どうやって、が書かれていないのがとても残念。

アイデンティと関わる属性についてはまわりに同調し、同時にアイデンティティと関わらない属性については差別化を図る。

デザインとテクノロジーが組み合わさってはじめて消費者に認識されるものであり、そしてその組み合わせは、イノベーションをほどよく違ったものに見せることができたときに一層の効果を発揮する。

社会的影響力が有利にはたらくのはどんなときかを理解していれば、どんなときにその力に逆らい、どんなときに受け入れればよいかを判断することができるのだ。

お仕事に役立つヒントらしきものは、これらでしょうか。

抜き出している箇所が比較的多いので、有益には違いないのですが、良書!と言いたくなるような決定打がないのですよ。