【本の感想】ルトガー・ブレグマン『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』

ルトガー・ブレグマン『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』

2018年 ビジネス書大賞 準大賞受賞作。

コロナ禍の昨今、景気がここまでダメダメだと、社会保障の話題が気になり始めました。小泉政権の経済財政相 竹中平蔵が、ベーシックインカムとして国民一人あたり7万円あれば、良くね?とおっしゃったのは、つい最近のこと。おったまげましたが、そもそもベーシックインカムって、何なのさ?・・・、ということでルトガー・ブレグマン(rutger bregman)『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』(Utopia for Realists: And How We Can Get There)を手に取ってみました。

本書の幹となるのは、お金を配ってしまえば、現代の課題は全て解決するんだよ、という主張です。金額の多寡はともかくとして、竹中平蔵に相通ずるじゃありませんか。こりゃまた、斬新!・・・なのかと思いきや、既に世界のあちこちで実証実験が行われていたようですね。

AIに代表されるテクノロジーが進化すると、世のお仕事がどんどんテクノロジーに置き換わっていく、というのは最早定説です。当然、失業者が増えるわけですが、著者は、テクノロジーの恩恵を手放したくないなら、大規模な再配分しかないだろう、と説きます。決して悲観的な未来像を描いているではなく、十分な時間が、より良い人生を導くのだと続けるのです。多分に欧米的なマインドを感じますが、ユートピアがあるとするならば、テクノロジーに身を委ね、タイトル通り一日三時間だけ働いて満ち足りた人生を謳歌することこそ、そうなのだろうと思い至ります。毎日三時間労働だけだと、自分を含め、大方のおっさんらは、残りの時間をどう使おうか道に迷うところでしょうが・・・

著者の嘆きはごもっともです。

管理職が多い国ほど、生産性と革新性が低いことを示している。

テレマーケターから租税コンサルタントまで、くだらない仕事がつぎつぎに生まれる背景には、強固な基本原則がある。それは「何かを生産しなくても、富を得ることはできる」というものだ。

実際、革新しないことが、ますます利益を上げるようになっている。

科学者たるべき優秀な人材が、金が稼げるマーケティングを生業にしている現状などは、著者が指摘する通り、真に変化に富んで希望に満ちた世界ではないのでしょう。

ベーシックインカムは、真のユートピアをもたらすものだと、著者は言います。しかし、金をばら撒くことが、労働の意欲を減衰させたり、不平等感を生んだりはしないのでしょうか。本書では、1975年イギリス公的救済プログラム「スピートナムランド制度」等の社会実験を例示し、ベーシックインカムが如何に効果的であるかを解説しています(「スピートナムランド制度」の、失敗という一般的な評価は覆しています)。同じような論調で、世に当たり前だと言われていること、例えば、移民が仕事を奪うとういう考え方にも真っ向から反論するのです。なるほど、著者が展開する理論を読み進めていくうち、そうかもね、と納得してしまいました。

荒唐無稽ともとれるアイディアですが、著者はこう言います。

アイディアは、どれほど途方のないものであっても、世界を変えてきたし、再び変えるだろう。

後世の人が評価をしてくれる。そういう著者の自信のほどを見せつけられました。世界保健機関(WHO)によると、2030年にはうつ病は、世界の病気の第一位になるそうです。著者のアイディアは、果たしてより良い世界に導くものとなるのでしょうか。

本書を読んで、アイディアは小さくまとめちゃいけない、という学びは得ることができました。

本筋とはちょっとずれますが、本書の中で記載のある「オヴァートンの窓」が面白いので紹介しておきましょう。アイディアが世間に許容されるには、一定の範囲に留めておかなければならないそうです。その枠をずらすには、ショッキングで破壊的なアイディアを提示して急進的なものを穏当にみせるのがテクニックだとか。トランプ(元?)大統領やジョンソン首相の振舞いに、ぷんぷん匂うよねぇ。