【本の感想】島田荘司『北の夕鶴2/3の殺人』

島田荘司『北の夕鶴2/3の殺人』

1985年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第4位。

島田荘司『北の夕鶴2/3の殺人』は、刑事 吉敷竹史シリーズの第3弾です。

吉敷刑事に掛かってきたのは、元妻 通子からの電話。再会を期待し、夜行列車<ゆうずる九号>のホームへ向かう吉敷でしたが、漸く車内に通子の姿を見かけた時には、列車は北へ向けて出発してしまいます。翌日、吉敷は、<ゆうずる九号>で女性の刺殺死体が発見されたことを知ります。そこは、通子をみかけた号車であり、所持品も通子を示すものでした・・・

本作品は、列車ミステリと、北海道 釧路で起きた伝奇ミステリをひとつにまとめあげています。伝奇ミステリは、義経北行伝説を絡めた、不可能犯罪です。
何せ、犯人のみならず、死体が発見場所に存在すること自体が謎になっているのです。釧路の原野に忽然と建つ3棟の不思議な形のマンションと、敷地内の夜鳴石。伝説の通り夜鳴石が鳴き、マンション内の一室で二人の死人が出ます。写真にしか現れない鎧武者など、奇々怪々なムードは満点です。

対する吉敷は、通子に逮捕状が執行されて、というタイムリミットが設定された上、暴漢に襲われて満身創痍。男の矜持を賭けてのハラハラドキドキの謎解きという体なのですが、あまり切迫感を感じません。

可能かどうかは別として、トリックのアウトラインが朧げながら、分かってしまうからなのでしょうか。通子のエキセントリックな性格も、事件の真相を追うにつれて魅力が少なくなってきます。吉敷の痛ましいほどの心のうちが、共感できる作品ではあるのですが・・・

本作品は、TVドラマ化されていて、鹿賀丈史が吉敷役でした。映像で見るより、本の方が想像力を搔き立てられたのだけは、憶えています。

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