【本の感想】佐藤愛子『戦いすんで日が暮れて』

佐藤愛子『戦いすんで日が暮れて』

1969年 第61回 直木賞受賞作。

佐藤愛子『戦いすんで日が暮れて』は、強い女性としょうもないヘナチョコ男性が織りなす短編集です。

著者の経験に基づくようですが、濡れ落ち葉な旦那の姿が悲哀を誘います。ある意味バランスが取れていると言えるでしょうか。タイトル作「戦いすんで日が暮れて」「ひとりぼっちの女子」「敗残の春」はシチュエーションが似ています。よっぽど腹に据えかねたのかなぁ。その他、

■戦いすんで日が暮れて
夫 瀬木作三の会社がつぶれ二億三千万借金を背負いました。アキ子は、夫を信用を裏切った男となじりつつ、夫が人に貸した百九十八万六千円の取り立てをするよう強く迫ります。債権者委員会が開催され、矢面に立つアキ子。ひたすら原稿を書いたり、テレビえ出演したりで、借金を返し続ける日々を送るようになります・・・

あらすじを書いてしまうと悲惨極まりなしですが、沸騰感が空回りしているようなコミカルな筆致のおかげが、気楽に読み進めることができます。三万円を女性に貸し口説きもしない夫へ、元を取っていないと詰るアキ子の剛毅さが印象的です。借金を残し去っていく夫にかける「あなたは人間じゃないわね。観念の紙魚だわ」という一言は、著者の本音でしょう。

■ひとりぼっちの女史
漫画家 高山高子の夫高山信三が営む会社が倒産しました。哀訴する借金取りの情けない姿を見て、憤怒を通り越し、やりきれなさを感じる高山女史。しかし、家政婦の安藤さんい愛想尽かされて意気消沈・・・

ダイ高山と異名をとる高山女史。女偉丈夫とは、彼女のような人物を指すのでしょう。啖呵の切れ味ば抜群です。しかし、気持ちが萎えてくるのは否めずにいます。間違えて訪ねて来たオトナのオモチャ屋に励まされ、思わず涙する件にほっこり。

■敗残の春
宮本達三が経営する広告代理店が倒産しました。男性評論家の肩書を持つ妻勝世は、情けない夫の姿を見て忸怩たる思い。友人たちが離れていく中、最後の味方であった運転手 加山にも裏切られ・・・

本作品も、孤軍奮闘 女性の姿が活写されています。三作品が続くとデジャヴ感を甚だしく感じますね。本作品では、ラストにちょっとしたラブ・アフェアがあります。女性の癒しはいつまでも女性と見られることなんですね。

その他の収録作は、主婦と下宿人の男子学生な関係『佐倉夫人の憂鬱』、冷えた夫婦に起きたさざ波『結婚夜曲』、女好きの男が辿り着いた先『マメ勝ち信吉』、つれこみ旅館の隣室を覗く男二人『ああ 男!』、妙齢の独身女性が恋したのは20近い年下の部下『田所女子の悲恋』です。

田辺聖子、佐藤愛子は勝手に似た路線かと思っていましたが、お二方の直木賞受賞作を読む限りは、佐藤愛子の方が男性への憤懣を感じる分、圧が強い印象です。