【本の感想】樋口有介『ぼくと、ぼくらの夏』

樋口有介『ぼくと、ぼくらの夏』

1988年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第4位。
1988年 第6回 サントリーミステリー大賞読者賞受賞作。

樋口有介『ぼくと、ぼくらの夏』は、同級生の自殺の真相を追う、即席高校生探偵 戸川春一と酒井麻子のひと夏の青春ミステリです。

本作品は、どうにも、どこかで聞いたようなストーリーです。展開があらあら予想がついてしまうので、ミステリとして読むには合格点とは言い難いですね。

資産家で刑事(男やもめ)の父をもつ春一。大物ヤクザ一家の娘 麻子。彼らや彼らを取り巻く人々のキャラクタ設定や、彼らの恋の行方が見所なのでしょう。自身を傲慢と評する春一の減らず口一歩手前のセリフや、麻子のツンケンした中に見せる可愛さが、読者の共感を呼ぶのかもしれません。

もっとも、モテ男の春一と、容姿端麗な麻子に対して自己を投影するのはちょっと厳しくはあります。ノスタルジックな感慨というよりは、青春の奇麗な上澄み液を味わったようです。ミステリ要素を除いていくと、あだち充の諸作品に近似していきます。

面白く読ませていただいたのですが、この作品が好きだと公言するのは、年齢的にちょっと気恥ずかしくはありますね。道具立ては時代を感じさせますが、ストーリーそのものは青春小説としての輝きを失ってはいなでしょう。好き嫌いは、どこに重点を置くかで決まってくると思います。

本作品は、1990年 和久井映見、蟹江敬三、沢田研二 出演『ぼくと、ぼくらの夏』として映画化されています。DVDにはなっていないようですね。