【本の感想】フィリップ・カー『ベルリン・レクイエム』

フィリップ・カー『ベルリン・レクイエム』(原著)

フィリップ・カー(Philip Kerr)『ベルリン・レクイエム』(A German Requiem)(1991年)は、ベルリン・ノワール三部作の第三弾です。

第一弾『偽りの街』は探偵小説、第二弾『砕かれた夜』は警察小説、そして本作品は謀略小説。第二次大戦戦中、戦後のドイツを舞台に、ベルンハルント・グンターを主役に据え、三部作でありながら趣向を変えて読者を楽しまれてくれるシリーズです。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

本作品の舞台は、1947年 ナチス崩壊後のドイツ。私立探偵のグンターは、ソヴィエト軍のボローシン大佐から仕事の打診を受けます。その内容は、アメリカ軍の大尉殺人容疑で拘留中の男、エミールの無実を晴らすこと。金のため、そして関係が冷えつつある妻から距離を置くため、グンターは依頼を了承しウィーンへと向います・・・

連合国の分割統治下にあるウィーンで、アメリカ、ソヴィエト、ドイツの思惑入り乱れる中、グンターは陰謀の渦に巻き込まれていく、という展開です。

ソヴィエト抑留の経験から、くたびれた感の漂う49歳のグンターは、いつものワイズラックは控えめ。ここも、前作と若干、雰囲気が違います。

本作品は、プロットが複雑で、展開にスピード感が少なく、途中だれ気味です。しかし、読み切らずに投げ出してはいけません。クライマックスは、怒涛の勢いで一気読みとなるでしょう。ピンチになればなるほど、グンターのへらず口が冴えてきます。決着のつけ方もさることながら、ラストに残る余韻がまた良いのです。

本作品は、戦後のドイツ、ウィーンの風物、そして そこに生きる人々の描写が素晴らしいですね。東西分断という時代背景が巧みに取り入れられていて、臨場感のある作品に仕上がっています。三部作を読み通すと満足感が絶大です。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『ベルリン・レクイエム』で、書影は原著のものを載せています。

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