【本の感想】末永幸歩『13歳からのアート思考』

末永幸歩『13歳からのアート思考』

イノベーション周辺の書籍をつらつら眺めると、”アート”の一語が目に入るようになりました。イノベーションを起こすには、サイエンス(つまり理論)だけではダメで、アートの感性が必要だという論調です。

例えば、山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』ピョートル・フェリークス・グジバチ 『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』には、アートの重要性についての言及がありました。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)。これはド文系の自分には、実にありがたい・・・と、思いつつも、じゃあアートって何なのさと問われると解がありません。

末永幸歩『13歳からのアート思考』は、アート思考を授業形式で説くものです。副題に「「自分だけの答え」が見つかる」とある通り、たった一つの正解を導くものではありません。この点で、サイエンスの教科書とは大きく違うのです。

本書は、中高生向けの授業をバージョンアップさせた体験型の書籍ということなので、この年代に理解し易い工夫がなされています。例えば、最初にエクササイズがあって、それぞれの答えに対して議論を深めるという進め方です。絵画を鑑賞し、気づいたことをアウトプットする「アウトプット鑑賞」は、なるほど漠然と見るという態度から、気づきを得るというマインドに変化することでしょう。読書のアウトプットの重要性は認識していましたが、鑑賞においてもアウトプットは有用なのだと理解しました。読み進めると中高生だけではなく、大人にも刺激を与えてくれる書籍であることが分かります。

著者は、アート思考を「3つの要素」で構成されると説きます。タンポポを例にとり、「作品」にあたる「表現の花」、アートの活動の源となる「興味のタネ」、アート作品が生み出されるまでの長い探求の過程である「探求の根」として表現します。そして、アートの本質的なものは、作品が生み出されるまでの過程だと主張するのです。”花だけ”をつくる「花職人」は、アーティストではない、とはなかかな過激なもの言いです。

自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求を続ける

というのがアート思考のプロセスならば、哲学的なアプローチに近いでしょうか。

世界が変化するたびに、その都度「新たな正解」を見つけていくのは、もはや不可能ですし、無意味でもあるのです

著者は、VUCAの時代には、「自分なりの答え」を”つくる”能力を育むべきであり、それがアート思考なのだと続けます。ここから、マティス、ピカソ、ポロック、ウォホールらの作品を鑑賞しながら、アートに向き合う態度を学ぶという流れです。絵画の歴史を紐解きながら、アーティストが時代の転換期にどう「探求の根」を伸ばしていったかを解説していきます(デュシャンの<泉>のエピソードは秀逸!)。今更ながら、絵画を表面からしか見ていなかったこと気づかされます。イテテ・・・

みんなちがって、みんないい

金子みすゞ『私と小鳥と鈴と』