【本の感想】桂望実『週末は家族』

桂望実『週末は家族』

桂望実『週末は家族』は、週末里親として施設の少女を預かる夫婦の、一風変わった家族の物語です。

夫婦や親子の常識って、実は息苦しいものだというのが、本作品のテーマ。確かに、家族は、時が経つと、幸せや安らぎの場を共有するというよりも、様々な問題を抱えてしまうことの方が多いように思います。本作品の一過性の家族は、家族という存在を所有し続けないという意味において、今のサブスク時代に合致しています。自分は、なんであっても所有することで愛情を注ぎ続けたくはあるのですが。

本田大輔は、妻 瑞穂と夫婦で小劇団を営んでいます。彼らは、10歳のひなたを、週末だけの里親として施設から預かり、家族を形成しています。瑞穂は、無性愛者、つまり性的な欲求がないという設定です。本作品は、子をなすことのない夫婦が、愛情を注ぐ対象として里子を ・・・、という安易なお話とは違います。ひなたの演劇の才能を見込んだ大輔が、ビジネスに一役買ってもらおうとするのです。

そのビジネスとは、一時的に家族を必要としている人へ、家族をレンタルすること。余命わずかなお年寄りのためにひなたが孫として顔を見せたり、瑞穂とひなたが親子を装って隠し子のスクープを狙ったり、乳がんの宣告を大輔が配偶者として聞いたりと、様々なニーズに応えるのです。

著者の作品は、アイディアとして面白いものが多いのですが、途中で勢いが止まるものも、まま見られます。本作品は、大輔、瑞穂、ひなたのキャラが立っていることもあり、それぞれの家族芝居の顛末を含めて愉しめます。

シェイクスピアに囚われたモラトリアムな大輔は、とても無邪気な性格です。里子をビジネスに?というと良くないイメージですが、本作品のエピソードの数々からは天真爛漫で、傷つきやすい中年の姿が浮かび上がります。ひょっとしたら、大輔メインでいくと、本作品はもっと見所が多くなったのかもしれません。

瑞穂は、可愛げがあるとはいえないひなたと、精神年齢は同じくらいでしょう。感情が沸騰すると、わけが分からない言動を発してしまうのです。愛という感情が欠落しているような瑞穂が、不器用ながら大輔やひなたを思いやる姿は、胸に迫るものがあります。ただ、ボケかまし方に可笑しさがないのが残念。

ひなたは、小利口さが鼻に付くのですが、読者に心の内まで覗かせてしまうのは興醒めです。ここは、仕草なりで本音を語らせて欲しいのだよなぁ・・・

さて、本作品は、やっぱり家族としてのまとまりが一番!と再認識するものではありません。家族という呪縛をとき、良いチームとして共に生きていくことができる。そんなメッセージを読み取りました。

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