【本の感想】深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』
2007年 第36回 メフィスト賞受賞作。
深水黎一郎『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』は、真犯人は本を読んでいる読者その人、という挑戦的なミステリです。
古今東西のミステリで、実は探偵が犯人でした!等、意外や意外の犯人当ては数々あれど、本作品が示す犯人像は過去に例を見ません。まさに、ウルチモ・トルッコ(究極のトリック)です。
作家である「私」に、香坂誠一と名乗る者から一通の手紙が届きます。香坂は、これまでにない”読者が犯人”というアイディアを一億で買わないか、と持ちかけるのです。手紙に付された覚書には、どういうわけか、少年の頃のエピソードがつづられています。それは、少女 恵利香との淡い思い出を語るものでした。以降、香坂は、「私」に手紙を送り続けます。
一方、「私」は、超能力研究者 古瀬博士の実験に関わっています。途中、「私」と古瀬の超能力談義が長々と続くので、まさかの、超能力オチ?という疑念がチラリと頭の片隅を過ります。ストーリーが、何処へ向かっているのか判然としないため、もどかしさも募るでしょう。一見、横道とも受け取れる古瀬の実験と、それに伴う長口舌ですが、実は、これがないと結論に結びつかないのです(やっぱり!とはならないのでご安心を)。この件では、著者がなかなかの知識人であることが分かります。テレパシーのトリックは、本筋ではないものの、興味をそそられました。
「私」は、徐々に香坂の手紙に、心惹かれていきます。三通目には、了承するならば、新聞に《母危篤、至急連絡待つ 太郎》の三行記事を載せよ、との一文があります。逡巡する「私」・・・
そんななか、「私」の元に二人組の刑事が訪れます。香坂は、殺人の容疑がかかったまま失踪していたのでした。その後も香坂の手紙は続き、ついには殺人に至る経緯まで書かれています。やがて、香坂の死体が妻からの通報で発見されて・・・
本作品の、読者が犯人ということは、「私」のある行動の結果として起きた、香坂の死を意味しています。読者は、どのようにして香坂を死に至らしめたのでしょう。フェアか、アンフェアかは置いておいて、確かに、読者を犯人とする究極のトリックだとは言えます。超能力談義、そして、覚書の顛末を、巧く本筋と絡めてくれた点も評価します。
なお、本作品は、『最後のトリック』として改題されています。