【本の感想】トレヴェニアン『ワイオミングの惨劇』

トレヴェニアン『ワイオミングの惨劇』

2005年 このミステリーがすごい! 海外編 第3位。

覆面作家トレヴェニアン(Trevanian)と言えば、オールタイム・ベストにランクインする『夢果つる街』が思い浮かびます。次は、と言うとクリント・イーストウッド主演で映画化された『アイガー・サンクション』、ドン・ウィンズロウが前日譚を書いた『シブミ』、そして『バスク、真夏の死』。トレヴェニアンは、寡作ですが、良質の作品をものしています(『ルー・サンクション』は除外するとして)。

『ワイオミングの惨劇』(Incident at Twenty-Mile)(1998年)も、これまでと同様、面白い作品に仕上がっています。

舞台は銀鉱ブームが去った、1898年の西部の寂れた町 ”20マイル”。この町は銀山との中継地点にあたり、15人の住民は定期的に訪れる坑夫の落とす金を糧としていました。世間から隔絶しながら、互に互を軽蔑し、決して相容れない住民たち。

ふらりと現れた若者マシューを通して、この一種独特のコミュニティで暮らす、住民らの人となりがじっくりと描かれます。陸の孤島ともいうべき閉塞感が迫ってきます。

物語は、3人の凶悪犯の登場で大きく動きます。刑務所からの脱獄囚が、”20マイル”へ逃げ込んできたのです。主犯格リーダーの悪党っぷりが素晴らしいですね。リーダーは、頭脳明晰でありながら、狂気にとらわれた男です。

暴力により住民を意のままに操るリーダー。

リーダーらの横暴な振る舞いに堪りかねたマシュー、貸馬屋の老人B・J、よろず屋のケインは、リーダーらを駆逐する作戦を立てるのでした ・・・

口先だけで人を篭絡することに長けた、根っからの詐欺師マシュー。今はなき保安官の住居跡を住処としていたマシューは、自らが”20マイル”の治安を守るために行動を始めます。マシューが何ものであるかと、凶悪犯との決着に興味がそそられます。

ところが、クライマックスにかけては、やや、あっけなさを感じます。キャラクターの描写に比べて、じっくりと闘いのシーンが描かれていないので、もの足りないのです。

解説によると『アイガー・サンクション』はパロディだったそうですから、本作品もわざと西部劇的な痛快さへ肩すかしを食らわしたのかもしません。

だから、締めくくりで、蛇足とも思える登場人物たちのその後を付け加えたのかなぁ。