【本の感想】岡本まーこ、にしかわたく『常岡さん、人質になる』

岡本まーこ、にしかわたく『常岡さん、人質になる』は、アフガニスタンで、何者かに誘拐されたジャーナリスト 常岡浩介の157日間に及ぶ拉致監禁生活 体験記です。常岡氏の同居人 岡本まーこと、イラストレータにしかわたくが、漫画としてまとめたものです。

同コンビの裁判傍聴もの『法廷ライター まーこと裁判所へいこう!』では、笑いの中に込められた著者の真摯さに感動したものですが、本書も同様、きっちりとメッセージを読み取ることができます。

アフガニスタンで行方不明になったジャーナリストが、タリバンから解放されたというニュースは聞いたことはありますが、その後、報道がなかったのでちょっと不思議に思っていました。なんと、過去のグルジアでの身柄拘束や、ロシアでの逮捕を踏まえ、外務省から常岡氏を使うなというキビシイお達しが出ていたというのです。どうりで耳にしないはず・・・

本書を読まなければ、常岡氏に起きた一連の出来事とその顛末を知ることはありませんでした。面白いと言っては失礼でしょうか。いや、実に興味深いですね。

だいたい、自分は、アフガニスタンの政情について全く理解していなかったのです。タリバン、アルカイダ、政府軍+アメリカ軍。外から見てもごちゃごちゃなのだが内も混乱の極み。常岡氏を誘拐した実行犯は、タリバンと思いきや、実は政府軍に加担する武装勢力ヒズビ・イスラミらしいのです(タリバン実行犯説は大人の事情ということですか)。ヒズビ・イスラミの幹部と面識のある常岡氏が誘拐されること自体、ガバナンスが効いていない証拠。ヒズビ・イスラミは、タリバン、アルカイダだけでなく、アメリカ軍を相手に戦闘を繰り広げているといいます。どうなっているのだこの国は。

人質となった常岡氏。いつ命を絶たれてもおかしくない中、犯人グループたちの奇妙な日常が始まります。ゆるい笑い話の中に垣間見える死の恐怖。にしかわたくのイラストが可愛いだけに、かえって、いたたまれなくなってしまいます。

携帯電話に詳しいことから携帯博士へ祭り上げられた常岡氏。英語の分からない犯人グループの目をよそにtwitterで情報を発信し始めます。間の抜けた話ですが、これもまた死を賭した行動なのです。

最終的に、どうにもならなくなった犯人グループは、常岡氏を解放することになります。本書で、犯人グループのメンタリティーの違いに言及していますが、この状況は想像するだけで怖いですね。一歩違ったらどうなることかと。こういう世界があるのです。こういう世界で生きている人々がいるのです。常岡氏のアフガニスタンでの日々を通してしみじみと思いました。

外務省からも大手マスコミからも嫌われてしまったつねおかですが、そんなに悪いヤツではなくて愛嬌だけはそこそこある彼を、世界との”接点”として利用してやってもらえたらと願ってやみません。

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本書が、あたなと広い世界の”接点”となれたらこれ以上うれしいことはありません。

気になるのは、常岡氏が自己責任をどう捉えているかということです。個人の無謀さが、日本国そのものに迷惑をかけていることにならないでしょうか。

その回答は本書の中で述べられています。自分は理解はできたつもりですが、皆さんはどうでしょう。イスラムの精神に則って、彼の国の人々が平和に暮らしていける日がくることを、祈りたいと思います。