【本の感想】コンスタンティーノ・ドラッツィオー『カラヴァッジョの秘密』

コンスタンティーノ・ドラッツィオー『カラヴァッジョの秘密』

2019年8月10日(土)~2019年10月14日(月・祝)の期間、北海道近代美術館にて『カラヴァッジョ展』が開催されました。

カラヴァッジョが来たなら、行かねばなりますまい。ということで、有給を取って出掛けてみたものの、カラヴァッジョの手になるものが少なく、同時代の作家が大多数。おまけに幾つかの絵画が到着していないという、やや脱力気味のイベントでした ・・・

ところで、カラヴァッジョって誰さ?

近代美術館で販売されていたコンスタンティーノ・ドラッツィオー(Constantino D’Orazio)『カラヴァッジョの秘密』(Caravaggio Segreto)(2013年)を購入し、復習に勤しむことしました。学生の頃から、予習よりも復習を頑張る方なので、成績に結びつかないのだよなぁ ・・・

本書は、17世紀以降の西洋画家に絶大な影響を与えた(らしい)カラヴァッジョの波乱万丈の生涯を紐解くものです。本書の冒頭に掲載した全30枚の絵画写真を参照しつつ、伝記風にカラヴァッジョの偉業とその時々の精神のあり様を描いていきます。乏しい資料から組み立てられてはいるものの、出版当時の最新の研究を反映した信頼に足る(と思う)解説書です。”こぼれ話”を挿入し、読み物としても楽しい工夫がなされています。

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571年~1609年)は、誕生の地ミラノで、12歳から画家となるべく修行を始めます。著者曰く、カラヴァッジョは、少年の頃から怒りっぽい性格であったらしく、成長するに従い、困難に出会えば出会うほど、常軌を逸した行動を取るようになったようです。「喧嘩っ早く荒っぽい」カラヴァッジョは、反骨精神を持ち合わせており、16世紀末イタリアの主流から外れて、独自の路線を歩んでいきます。批評家からの厳しい評価に晒されても、比類なき唯一無二の画家として認められるために。

カラヴァッジョの最初の歩みの地となるのは、国際都市ローマ。画壇に登場したその時から、カラヴァッジョの描く人物画は、注文主を魅了したそうです。「女占い師」、「トランプいかさま師」は、どこかでお目にかかった事があるでしょう。この当時、カラヴァッジョは、パトロンからだけではなく、警察からも目を付けられるようになったとのこと。芸術家イコール放蕩者、の悪いイメージそのものですね。まぁ、当時のローマの芸術家は、狂気に取り憑かれた者ばかりだったようですけど。

興味深いのは、カラヴァッジョが描く絵が、素描や下書きをしていないようだ、という点です。一瞬を詳細に切り取ることができるという、まさに天才を証明するもので、それを念頭に置いて作品を鑑賞すると、感慨も一入です。もっとも、「光と闇」とか「奥行き」の技法については、言われてみればなるほど、でしかないのですが。

カラヴァッジョは、デル・モンテ枢機卿というパトロンを得て、チャレンジャブルな作品を世に出していきます。なるほど、どこが先端なのかは、解説を読み進めると良く分かります。目的意識を同じくする二人が高めあってこそ、現代においても鑑賞できる名品を生み出すことができたのです。

さて、順風満帆に見えるカラヴァッジョですが、日頃の乱暴狼藉が祟ったか、殺人を犯しローマから逃亡してしまいます。逃亡先のナポリで偉大な巨匠として迎え入れられるカラヴァッジョ。数々の作品をものするものの、ローマへの帰還の思いは断ちがたくありました。ローマ教皇に赦しを請うものの、しかし、願い叶わず謎の死を遂げるのでした。この年(1610年)に描かれた「ダヴィデとゴリアテ」は、必見です。切り取られたゴリアテの首は、カラバッジョだとか。

結局、本書のタイトルの”秘密”は、なんだったのでしょう。”謎”はいくつか解き明かしているようではあるかなぁ・・・。

2019年9月25日(日)、北海道立近代美術館『カラヴァッジョ展』の入り口にあった顔ハメです。中は当然の事ながら撮影禁止なので、これを記念に。

北海道立近代美術館『カラヴァッジョ展』