【本の感想】ジム・トンプスン『取るに足りない殺人』

ジム・トンプスン『取るに足りない殺人』

ジム・トンプスン(Jim Thompson)『取るに足りない殺人』(Nothing More Than Murder)は、1949年発表だから、比較的初期の作品です。(『内なる殺人者』が1952年)

ジョー・ウィルモットは、手練手管を尽くしながら、なんとか傾きかけた映画館を営業し続けてきました。しかし、私生活では、妻エリザベスとの冷え切った関係に辟易とする日々です。

そんな中、ジョーと家政婦のキャロルとのお熱い場面を目撃したエリザベスから、保険金詐欺の計画を持ちかけられます。保険金二万五千ドルで、すっぱり関係を清算しようというのです。ジョーとキャロルは、エリザベスの計画に同意し、犯罪に手を染めていくのでした ・・・

本作品が扱っているのは、ごくごくありふれた保険金詐欺のための殺人です。

ストーリーは、過去、現在が入り組んで展開します。犯罪に到る経緯が、少しずつ明らかになっていくため、興味がぐぐっーと引っ張られていきます。事件の単純さに比べると、映像が浮かびやすいし、読み応えがたっぷりです。

トンプスンの巧みさがひかります。

本作品は、こすっからい登場人物たちの駆け引きが面白いですね。特に、ジョーの才気煥発ともいっていい、巧みな折衝術は見所です。

ジョーのアリバイをつくり、エリザベスの身代わりとなる女性を焼死させる計画は、まんまと成功します。しかし、保険調査員アップルトンは、ジョーを露骨に疑い始めるのでした。アリバイの綻びを見つけ始めたヤツらも、ジョーにプレッシャーをかけてきます。おまけに、映画館を乗っ取りのたくらみも聞こえてきて ・・・ と続きます。

ジョーは意外に脆い男です。弱みに付け込もうとするヤツらにビビリながら、なんとかその場を凌ごうとします。図らずも犯罪計画に加担してしまった小悪党のようです。犯罪をへとも思わないどす黒さがみられない分、ノワールとしては、パワー不足を感じてしまうかもしれません。

さてさて、ジョーは窮地を脱し、保険金を手にすることができるのでしょうか。読み進めながら、いつの間にかジョーを応援していることに気づきます。へたれ加減が、共感をよんでしまったのかもしれないなぁ。

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