【本の感想】ジェフリー・アーチャー『ロシア皇帝の密約』

ジェフリー・アーチャー『ロシア皇帝の密約』(原著)

1984年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第7位。

失業中の元軍人 アダム・スコットは、父の死によってささやかな遺産を相続します。父もまた軍人であったのですが、ナチスの戦犯ゲーリングの自殺を幇助したという汚名を着せられたまま退役をしていました。

アダムが手に入れた、遺産の中の一通の封書。

そのドイツ語の手紙には、先々アダムを窮地に陥れることとなる秘密が隠されていたのです・・・

ジェフリー・アーチャー(Jeffrey Archer)『ロシア皇帝の密約』(A Matter of Honour)(1986年)は、典型的な巻き込まれ型のエスピオナージです。

アランが相続した遺産の中に、失われたはずのロシアとアメリカの密約文書の鍵=イコンが含まれていて、イギリスを含めた三つ巴の争奪戦が繰り広げられます。

密約文書の内容は、ロシアを対アメリカ戦略上、絶対的優位に立たせる契約文書です。ロシアは何としても有効期間内に密約文書を入手しなければなりません。KGBのロマノフは、何も知らないアダムとイコンの行方を執拗に追い続ける、という展開です。

クライマックスは、アダムのヨーロッパでの逃避行が中心です。

ロマノフの非情かつ残忍な追跡に加え、ガールフレンド殺害の容疑でスイス警察にも追われるという緊迫感が、読者をぐいぐい引っ張っていきます。アダムを救出するはずのイギリスには、ロマノフやアメリカに通じるスパイがいて、ピンチまたピンチの連続になってしまうのでした。

知力、体力振り絞っての生真面目男アダムの頑張りが見所です。

さらに、敵役のロマノフや、アダムを助けるロビン、アダムのガールフレンド ハイディなど、敵味方に関わらず魅力的な登場人物たちが、ストーリーを盛り上げます。特に、ロマノフの悪党ぶりは必見です。

ロシア、アメリカ、イギリスが注目するなか、孤立無援となったアダムが最後に打った手は何か。父の汚名を晴らすというおまけまで付いて、ラストは痛快な決着を見せてくれます。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『ロシア皇帝の密約』で、 書影は原著のものを載せています 。