【本の感想】D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』

本の感想 D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』

D・M・ディヴァイン(David Mcdonald Devine)『紙片は告発する』(Illegal Tender)(1970年)は、地方都市の町役場を舞台に、ひとつの殺人事件が、閉鎖的な人間関係の中の、裏の顔を炙り出していくというミステリです。

誰が?何故?は、もちろん興味の中心ではあるものの、読み進めていくうちに登場人物たちの野心なり、性根なりが明らかになってくる過程が面白い作品です。

町役場のタイピスト ルースは、庁舎内で拾った一枚の紙片から何事かを感じ取り、その内容を警察へ持ち込むと喧伝していました。程なくして、ルースの絞殺死体が自宅から発見され、知り得た内容は闇の中へと消えてしまいます。町書記官ジェフリーと不倫関係にあった副書記官ジェニファーは、その内容に上司との関係の発覚、はたまた役場内での汚職の二つの可能性を察知し、殺人犯とその動機を探り始めるのでした・・・

冒頭は、被害者となるルースの日常に頁を割いています。ストーリーの本筋とは外れたこの冗長とも受け取れるこの導入の仕方は、本作品の読ませ方が提示されているようです。著者の作品は初読になりますが、登場人物の性格描写に力点を置いており、なるほど、これだからこそ犯人と動機の納得性が出てくるのです。

主人公ジェニファーは、ある時はキャリアウーマンとしての力強さを見せ、ある時は道ならぬ恋愛に心揺れるという、女流作家もかくやという設定です。男性作家が、女性を主人公に据え、情緒的な観点から物語を引っ張っていくのだから、力量があると言えるのでしょう。

町長選挙にまつわる男たちの権謀術数や、女性の登用を阻むガラスの天井が絡み合って、企業小説風の読み応えがあります。

かの国の町議会などの馴染みのない制度は、読み進めていくうちになんとなく分かってくるのですが、とっつき難いかもしれません。次に発生する殺人事件と第一の殺人との関連が、不明瞭に見えて不満が残ります。ただ、見るべきはそこではないのでしょう。

『5番目のコード』『兄の殺人者』等、評価が高い作品を読んでみたくはなりますが、本作品から入るのは二作品を読了してからの方が良いかもしれません。