【本の感想】アダム・ペネンバーグ『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』

アダム・ペネンバーグ『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』

バイラル・ループというのは、インターネット上でブログやツイッター、ユーチューブなどのソーシャルメディアを経由して、情報がウイルスのように伝播していく現象のことだ。

インターネット上で、個人をハブとした信頼に基づく情報の流れ。いわゆる口コミです。

アダム・ペネンバーグ(Adam Penenberg)『バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある』(Viral Loop)は、口コミ戦略の元祖タッパウェアーから、懐かしのネットスケープ V.S. マイクロソフトのブラウザ戦争、ネットでヒットした低予算映画、ユーチューブのバイラル動画といった話題を織りまぜながら、ホットメール、ペイパル、イーベイ、マイスペース、フェイスブックなどのバイラル企業の成り立ちと、その顛末を紹介し、バイラル・ループの本質を明らかにしていきます(と思う)。

日本には馴染みの薄いものもあるのですが、何より、それぞれの起業家たちの野心が透けて見えて面白いですね。

共通しているのは、ユーザにコンテンツを作る場を提供し、口コミでユーザ数を倍々に増やして、広告収入で利益を出しつつ、大手に買収されるという戦略です。アイディアと技術 = 組織化のテクノロジー、そしてスピードで勝負。予想外の規模の拡大に伴い、スケーラビリティの問題に直面していくあたりなど、とにかくビジネスを立ち上げて、という思考なのでしょう。

インターネットは、小さく初めて大きな富を得るチャンスを提供してくれます。反面、企業と個人、個人と個人の信頼に基づいていることがバイラル・ループのキモですから、これを失墜したときのインパクトは、相当大きなリスクとなってしまいます。口コミでは、悪評も瞬く間に広がるということです。ちょっと前の「食べ〇〇」の、ステルスマーケティングが、顕著な例でしょう。

著者が言うように、従来型の広告収入を期待するビジネスのコンセプトは、変えていくときがきているのは理解できます。

広告クリックというコンセプトに頼って業界全体が発展したのは、じつに驚くべき話といえるだろう。

では、何がバイラル企業の収益を拡大していくのか。今後、起業家たちがどのようなサービスを打ち出してくるのか、興味は尽きないところです。本書は、自分もチャンスをつかむことができるかも、と淡い夢を抱かせてくれます。もちろん、自分は、紹介されている起業家のようなお利口さんではないのだけれど。

著者は、最終章でプライバシーにも触れています。利便性を追求するのであれば、プライバシーは問題にしないという著者の記述は同意です。最低限は必要だけれど、あまり過敏になりすぎると、何もできない世の中になってきているのは実感します。