【本の感想】ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『星ぼしの荒野から』

ジェームズ・ティプトリー・ジュニア『星ぼしの荒野から』

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(James Tiptree,Jr.)『星ぼしの荒野から』は、ラクーナ・シェルドン(Raccoona Sheldon)名義の作品と、女性作家であることが”バレて”からの作品が収録された短編集です。原著を読んでいるわけではないので、男性作家時代(?)との文体の差異は、勿論、分からないのですが、ジェンダー感はこれまでの作品と通底しているように思えます。

本作品集は、ファース・トコンタクト、スペース・オペラ、幻想、終末ものとバリエーションが多く、いずれもシニカルで、苦い後味を残します。

マイベスト5は、以下の通りです。

■ラセンウジバエ解決法
女性不要の思想に取り憑かれた世界を描く、ネビュラ賞受賞作です。ジェノサイドが吹き荒れ、女性がいなくなった未来は果たして・・・

独特の終末観に彩られた緊張感溢れる作品です。本作品は、SF好きには必読と言って良いでしょう。今改めて読んでみると、男性によるDVを皮肉った作品とも受け取れますね。 

■われら<夢>を盗みし者
異星人に虐げられた人々は、故郷の星を目指し、宇宙への逃避行を企てます。ようやく辿りついた先で、彼らが目にしたものはとは何か・・・

ありがちの結末ですが、悲哀を誘う巧みな表現がなされています。

■スロー・ミュージック
崩壊した世界で出会った男女。旅を決意した二人に待っていたのは・・・

背景は一切語られませんが、不思議な重苦しさが最終戦争後を予感させます。女性キャラクターのピーチシーフ(桃盗人)という名前が、作品の幻想的なトーンにぴったりです。

■星ぼしの荒野から
敵に追われ地球へ逃げてきた非物質エイリアン。氷河に突入する直前、その意識は、3名の人間に入り込んで・・・

途中まで、どこへ向かっているのがさっぱり分かりません。読了してみれば、人というものの存在を問い直す、味わい深い作品でした。

■たおやかな狂える手に
狂気に駆られた宇宙女性飛行士が不時着した異星。大気はあるものの、人間には耐えられない放射能が充満していました。やがて、その星の住民たちが姿を現して・・・

ティプトリーのジェンダー感が、色濃く表れた作品。『たったひとつの冴えたやりかた』を彷彿させる、静謐な結末が印象的です。

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