【本の感想】恒川光太郎『夜市』
2005年 第12回 日本ホラー小説大賞受賞作。
恒川光太郎『夜市』をホラー小説という冠で、敬遠してしまう読者がいるとすると、それはとても残念なことです。本作品は、ホラーというより、ファンタジーの方がしっくりきます。ダーク・ファンタジーと言うべきでしょうか。
収録作品は、表題作『夜市』、そして『風の古道』。両作品共に、どこかで聞いたことのあるような、懐かしさを覚える物語です。
夜祭や古道は、人を魅了します。心弾む楽しさ、美しさ。そして、その裏側の、見てはいけないものが潜んでいるかのような薄気味悪さ。二つの相反するものが共存しているがゆえに、人を魅了するのではないでしょうか。
そう、お伽噺のように。
両作品の懐かしさは、自分たちが子供の頃から親しんでいるものと同質だからなのだと思います。
作者が幻視しする異世界は、現実との儚いつながりを保っています。異世界に置いてきたものは、二度と取り戻すことはできません。両作品の舞台は異なりますが、このルールは共通しています。
子供たちの一時の残酷さが、そして好奇心が、悲しい運命を呼び寄せます。
本作品が、恐怖を表しているとするならば、異形のものたちのことでありません。それは赦しがないことなのです。怪異な体験をした登場人物たちが、ここから教訓を得ることはありません。本作品は、「成長の物語ではない」のですから。
著者の、短いセンテンスで書き連ねた文章が、乾いた印象を刻み込んでいきます。読み終わった時に残ったのはなんでしょうか。夜祭の後の、寂しさに似た気持ちかもしれません。
どこかで聞いたことがあるようで、でも一度も聞いたことがない。本作品は、純日本的なダーク・ファンタジーなのです。
(今回は、あらすじを書かないで、頑張ってみました)
本作品が原作の、奈々巻かなこ 絵 漫画『夜市』はこちら。