【本の感想】ピーター・ストラウブ『扉のない家』

ピーター・ストラウブ『扉のない家』(原著)

ピーター・ストラウブ(Peter Straub)『扉のない家』(Houses Without Doors)(1990年)は、著者らしい文芸よりの作品集です。 ホラーの位置付けなのでしょうが、スーパーナチュラルを全面に押し出さず、人間の心理を丹念に描写することで恐怖を煽っているのが特徴的です。

それぞれの作品は、ごく短い頁数にまとめることもできるはずですが、冗長とも思える中編作品に仕上げています(短い作品は2編のみです)。人の痛みや苦しみをじわじわと表現するには、著者の作風と作品の長さは相乗効果を生むのかもしれませんね。どの作品も結末に明確な何かが提示されるわけではないので、じっくりとこの長い物語の過程を楽しむことができるのかが、好き嫌いの分かれ目でしょう。

全編を通して暗さが目立っており、タイトルの『扉のない家』から想起するように、読了した時には閉塞感が強く心に残ります。自分は、別の作品集で本書収録の『ブルー・ローズ』『レマダの木』を読んでいたのですが、かなり時がたっていても気味の悪い肌触りに似た感覚を憶えていました。

収録作品は、催眠術で弟を自死させてしまう少年『ブルー・ローズ』、映画館での淫蕩な体験をする少年『レマダの木』、地方都市の欺瞞『ある街の短い観光案内』、本に没我していく哺乳瓶に執着を持つ独身青年『バッファロー・ハンター』、観客を魅了する不可思議なパフォーマンス『ポポの魔法のタクシー』です。

とりわけ長編といってもよいくらいの頁数を割いて紡ぎだされる『女神の館』が良いですね。

■女神の館
選ばれたもののみに研究施設を提供する英国のエスタウッド・ハウス。米国の大学で終身在職権の取得を目論むスタンディッシュは、自身の祖母の姉であり詩人のイザベルを発掘するため、エスタウッド行きを切望します。スタンディッシュは、エスタウッドへ自身の熱意を表明して、長らく待ちに待ったあげく、ついに一通の招待状を受け取るのでした・・・

伝統的な英国ゴーストストーリーです。底冷えするような恐怖を感じることでしょう。謎が謎のまま終わってしまうのが、かえって強い印象を刻み込むことになります。読者のストラウブに対する好悪がわかる試金石のような作品です。

なお、『ブルー・ローズ』は著者のブルー・ローズ三部作『ココ』『ミステリー』『スロート』の作中作の位置づけになっています。

(注)読了したのは扶桑社の翻訳版『扉のない家』で、 書影は原著のものを載せています。

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