女子高生の孤独を描いた作品です。平易な言葉の組み合わせで、感情の広がりを表すことができる19歳(当時)の綿矢りさ、おそるべし。孤独に直面して、気持ちになかなか整理がつなかい主人公ハツの真っ直ぐさが、愛…
【本の感想】綿矢りさ『勝手にふるえてろ』
綿矢りさ『勝手にふるえてろ』は、脳内で二股をかけるOL江藤良香(ヨシカ) の日々が描かれた作品です。
イチは、ヨシカが中学生からの想い人。イチには苗字も名前もなく、記号で語られます。ヨシカは、26歳になった今でも、イチに対しての恋心で煮えたぎっているのです。
ヨシカは、縷々、中学時代の想いを反芻するのですが、このオタク女子の生態がとっても愉しい。見たいけど見ていることに気づかれないためにあみ出したヨシカの技、その名も「視野見」。クラスの人気者(とヨシカが思い込んでいる)イチは、馴れ馴れしさに対して怖気を震っているであろうと、勝手に共感を覚えます。とっておきは、イチを主役としたマンガ「天然王子」の執筆。そんな恋焦がれるヨシカに、イチは図らずも大切な思い出を残してしまうのです。この何気ないイチの振舞いは、誰にでも憶えがありそうです。
イチを忘れられないヨシカにも、アツく交際を迫ってくる同期入社の男がいます。これまた、記号で語られるニ。イチの痩せぎすの骨っぽさとは違って、体育会系でビールっ腹の、暑苦しいオーラ出しまくり男です。二は思い込み激しく、ストーカー一歩手前で自己陶酔が激しいヨシカと同じタイプ。だからヨシカは、二を邪険にできず、イチとニを脳内で二股かけてしまうのです。
どうしても、大人になったイチに会いたい!ヨシカ。友達の名を語って、同窓会を開催するという暴挙に出ます。ここからヨシカの、突拍子もない行動が始まります。
再会したイチに対するヨシカの気持ちは・・・「はかない頭頂部も風情があって好き」。二の告白を受け入れられないヨシカ。あばたもえくぼ V.S.坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。惚れた男と惚れられた男、それぞれに対してのヨシカの勝手なよろめき具合が絶妙です。同窓会で約束したイチとの集いの夜は、ち~ん、ってやつですね。
さぁ、オタク女子の、妄想と現実の狭間にあるこじれっぷりを見よ!こじれ度MAXに至っては、読み進めながら居たたまれない気持ちになってしまいました。本作品は、登場人物たちが、イイ女でも、イイ男でもなさそげな所が、より哀愁を誘います。
切羽詰まってどうするヨシカ!イチ、二ともに、ヨシカが吹っ切れた感を持った時に、初めて名前が登場します。このあたり、巧いなぁ。
なお、収録されている「仲良くしようか」は、観念的な青臭さを感じてしまい好みではありません。
本作品が原作の、2017年公開 松岡茉優、北村匠海 、渡辺大知 主演 映画『勝手にふるえてろ』はこちら。
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