【本の感想】H・S・サンテッスン『密室殺人傑作選』

本の感想 H・S・サンテッスン『密室殺人傑作選』

ミステリが密室ものと聞くとどうにも興味がそそられます。密室は、作家さんたちの手腕を堪能できる不可能犯罪の究極の姿なのです(と勝手に思っています)。ゆえに、読者のチャレンジ精神を大いに煽りたてます。そろそろトリックのネタは出尽くしたのだろうと思っているので、これは!という作品に出会う時の喜び倍増です。

H・S・サンテッスン(H・S・Santesson) 編『密室殺人傑作選』(The Locked Room Reader)は、タイトルからして密室好きにはたまりません。 読まずにおれるかという気にさせてくれます。

本書は、フェル博士、クィーン警部、ブラウン神父らが密室の謎を解くアンソロジーです。一度は目にしたことがある作品もあるでしょうが、本書を読むとあらためて密室とトリックのバリエーションの多さに驚嘆してまいます。

無名に近い作家の作品も収録されていますが、非常に水準が高く、”密室好き”ならずとも一読の価値があると思います。殺人事件が発生しない作品も収録されているので、この邦題は疑問ではありますね。

本書のお気に入りベスト5を挙げてみましょう。

■クレイトン・ロースン『世に不可能事なし』
奇術家探偵マーリエの目前の個室で、円盤研究に取り憑かれた男が射殺されました。死体の側には裸の男。そして、三本指の小さな足跡が点在しています ・・・

ロースンの創り出した名探偵マーリエが活躍する作品です。不可能犯罪に、超常現象を絡めているのですが、トリックはどこかで見たことがあります。これが元ネタなのでしょうか。

■エドワード・D・ホック『長い墜落』
21階から男が飛び降り自殺を図りました。しかし、死体はどこにもありません。どこかに消えてしまったのです。それから、3時間45分後、長い墜落の末、男は路上に打ちつけられて ・・・

短編の名手ホックの人体消失ものです。密室のバリエーションの一つとしてホックの妙技が楽しめます。

■ローレンス・G・ブロックマン『執行猶予』
探偵らが踏み込んだとき、男は既に死亡していました。密室とガス中毒の症状から自殺とみられます。しかし探偵は、殺人の疑いを抱くのでした ・・・

30年代の作品とのことで、トリックは定番中の定番です。物語としてスッキリとまとまっていて面白いですね。

■ジョゼフ・カミングズ『海児魂』
座礁した船を探索中の潜水夫が刺殺されました。船上の二人以外に誰もいません。凶器のナイフも見覚えのないものでした ・・・

水中に没した船が密室を形成しています。真相を追いつめる推理の冴えが堪能できる作品です。

■トマス・フラナガン『北イタリア物語』
15世紀北イタリアの城。フランス王への献上品が盗難にあい、警護のものが殺傷される事件が発生しました。城主は、大公の使臣の前で、犯人を炙りだそうとします ・・・

本作品は純然たる密室ものとは趣きが異なりますが、物語としての重厚さが印象的です。西洋史に知見があるなら、ラストにニヤリとしてしまうでしょう。

その他の作家陣は以下のとおりです。

ジョン・ディクスン・カー/エラリイ・クイーン/クレイグ・ライス/G・K・チェスタトン/モリス・ハーシュマン/メルヴィル・デヴィッスン・ポースト/ウィリアム・ブルテン/ミリアム・アレン・ディフォード/アンソニー・バウチャー

ちなみに、邦訳にあたって除かれたイズレイル・ザングウィル『ビック・ボウの殺人』はこちら。フェアかアンフェアかで意見が分かれる作品です。自分はアンフェア派。

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