【本の感想】山岸真 編『90年代SF傑作選』

山岸真 編『90年代SF傑作選』(上)

翻訳小説を全く読まなかった自分に、海外SFの楽しさを教えてくれたのはウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』でした。サイバーパンクにのめり込んだ懐かしの80年代。以降、これといったムーブメントが起きなかったからか、グレッグ・イーガンの短編集を申し訳程度に読むくらいで、ポスト・サイバーパンクから現代までの国内・海外SFにはすっかりご無沙汰していました。

山岸真 編『90年代SF傑作選』は、サイバーパンクが終結し、時代の息吹みたいのを感じなくなった90年代のSFアンソロジーです。『90年代SF傑作選』のタイトルだけれど、編者の趣味なので傑作かどうかは貴方次第というところでしょうか。自分としては、河出文庫『20世紀SF〈6〉1990年代―遺伝子戦争』に軍配を上げてしまいます。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

面白かったのは、アレステア・レナルズ『エウロパのスパイ』マイク・レズニック『オルドヴァイ渓谷七景』デイヴィッド・ブリン『存在の系譜』。バリエーションは豊富ではあります。ブルース・スターリング『80年代サイバーパンク終結宣言』(エッセイ)は、読んでいるとなぜか気恥ずかしさを感じてしまうから不思議です。

■エウロパのスパイ
異星で繰り広げられるハードボイルドタッチの未来史。懸垂都市という街の景観と、そこに生息する異星生物の描写が秀逸です。ミステリ風味が効いている読み応えがある作品。

■オルドヴァイ渓谷七景
絶滅した人類の遺構を探索するため地球に降り立った異星人たち。彼らが発見する人類の数々の罪と罰というありがちなストーリーです。でも、こういう説教くさいSFも嫌いじゃありません。

■存在の系譜
ブラックホールの謎と、母性を絶妙にブレンドしたハードSF。スケールのでかさが感動的ですらあります。長く心に残るであろう作品です。

その他の作家陣は以下のとおり。現代でもご活躍の面々です。

ニール・スティーヴンスン/スティーヴン・バクスター/ダン・シモンズ/コニー・ウィリス/ショーン・ウィリアムズ/ジョナサン・レサム/イアン・R・マクラウド/アレン・スティール

下巻に続く ・・・

山岸真 編『90年代SF傑作選』(下)

上巻がいまいちであったので期待をしていませんでしたが、下巻はなかなか楽しめます。

ナノテクあり、改変歴史あり、ホームズのパスティーシュ(?)ありとバリエーションが豊富です。面白かったのはテッド・チャン『理解』ジャック・マクデヴィット『標準ローソク』ロバート・リード『棺』。(グレッグ・イーガン『ルミナス』は、短編集『ひとりっ子』で既読でなければ、文句なくベスト)

■理解
治療により知能が劇的に向上するというダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』を彷彿させる作品です。こちらの方は、究極の知性体まで到達してしまうのですが、そのめくるめくイメージに驚嘆します。

■標準ローソク
宇宙に魅せられた天文学者とその妻の物語。SFというより普通小説ですが、本傑作集のちょっとしたアクセントになっています。しっとりした余韻を残す作品です。

■棺
星間旅行で遭難した男の一万年の旅。棺のようなコンピュータ制御のライフスーツで、冷凍睡眠を繰り返しながら一人宇宙を放浪し、たどり着いた先は ・・・。なんとロマンチックで壮大な作品ででしょう!

その他の作家陣は以下のとおりです。

テリー・ビッスン/ロバート・J・ソウヤー/エスター・M・フリーズナー/イアン・マクドナルド/ジェイムズ・アラン・ガードナー/ナンシー・クレス

  • その他のSFアンソロジーの感想は関連記事をご覧下さい。