【本の感想】ダン・シモンズ『夜の子供たち』

ダン・シモンズ『夜の子供たち』(原著)

ダン・シモンズ(Dan Simmons)『夜の子供たち』(Children of the Night)(1992年)は、『サマー・オブ・ナイト』で活躍する11歳の少年マイクが、40代のおっさんになって再登場します。『サマー・オブ・ナイト』は太古の悪霊と対峙する少年達の姿を描いたゴシック・ホラーですが、本作品はドラキュラ伝説に科学的解釈を試みたSFチックな仕上がりのホラーとなっています。 (リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

舞台はチャウシェスク政権崩壊後のルーマニア。ルーマニア短期支援ツアーに参加した米国防疫センターの女医ケイトは、劣悪な医療現場に直面し、激務により心身ともに疲労困憊していました。そんななか、ケイトは身寄りのない免疫不全の幼児と出会い、愛情を感じるようになります。神父マイクの勧めと同僚ルチアンの理解もあり、ケイトは幼児をジョシュアと名づけて養子とし、アメリカでの治療に専念しようと決意するのでした・・・

ダン・シモンズは現地で取材をおこなったようで、この頃のルーマニアの混沌状態がじっくりと描かれています。『カーリーの歌』の暗黒都市としてのカルカッタも同様ですが、悪意さえ感じざるを得ない地獄絵図です。読み進めていくうちに、恐怖と絶望が入り混じった感情に囚われます。

アメリカに戻ったケイトは、ジョシュアの治療を続けるうち、内臓に別の器官があることを発見します。その器官は、血液を取り込むと、身体の状態を正常化する機能を持っているのです。治療チームは、ジョシュアの中に存在するレトロウィルスに、不治の免疫不全に対する治療の鍵を見い出します  ・・・

このあたり、科学的に正しいのかどうかわかりませんが、ハードSFのような展開です。

ケイトら治療チームのレトロウィルスの分析が進む中、何者かが研究施設を破壊し、ジョシュアを攫ってしまいます。犯行グル―プは、ショットガンで撃たれても死なない男たち。ルーマニアに連れされたことを確信したケイトは、マイクの力を借りてジョシュアの跡を追う決意をします・・・

ここからは、ルーマニアへの決死の潜入行をへて、謎の集団からのジョシュアの奪還劇へと怒涛の展開をみせます。ハードSFからアクション活劇へと転換してしまうのです。ケイトとマイクに、これでもかと絶対絶命のピンチが襲いかかります。不撓不屈のケイトとマイクの姿は、感涙ものです。

本作品には、所々、ヴラド・ツェペッシュのモノローグが挿入されています。串刺し候ドラキュラの伝記の体裁になっていて興味深いですね。

徐々に心を通わせていくケイトとマイクの姿も良いのです。異常な状況下で盛り上がる男女関係は、お約束ですがなかなかよくできています。二人の行く末は、『エデンの炎』にて、これまた『サマー・オブ・ナイト』の登場人物で、おばちゃんとなったコディから語られことになります。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

なお、本作品では『サマー・オブ・ナイト』の<バイク・パトロールの面々>ジムは上院議員、ケヴィンはNASAへ勤務、ディルは作家になっていることが触れられています。ラリーは『ダーウィンの剃刀』に再登場です。

(注)読了したのは角川文庫の翻訳版『夜の子供たち』で、 書影は原著のものを載せています。

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