【本の感想】中村融 、山岸真 編『20世紀SF』全6巻

2001年 SFが読みたい! 海外編第2位。

河出文庫の中村融、山岸真 編『20世紀SF』は、1940年代から1990年代までの海外SFの名品を集めたアンソロジーです。それぞれの作家の短編集で読むことができる作品はありますが、アンソロジーは未知の作家・作品との出会いです。全6巻からなるシリーズを読み進めると、きっとお気に入りの作品を見つけることができるでしょう。それぞれの時代を概観する上でも重要な資料であり、後世に残したい力作です。

中村融、山岸真 編『20世紀SF』第1巻

第1巻は1940年代。

現代でも色褪せないていない名作を読むことができます。国内にほとんど紹介されていないチャールズ・C・ハーネスを知ったのは収穫でした。全編水準が高いのですが、特に面白かったのはアーサー・C・クラーク「時の矢」、そしてC・L・ムーア「美女ありき」です。

■「時の矢」
地質学者チームが5千万年前の古生物の発掘作業をおこなっていました。近隣の施設では、過去を見る研究が進んでいる様子。ふたりの若い地質学者は、この研究に期待をよせていたのですが・・・

■「美女ありき」
かつて全世界を魅了した女優ディアドリアが、火災で死亡してから一年。医師のアマルツァは、彼女を蘇らせることに成功します。それは、生前の彼女を完璧に再現する金属のかたまりでした ・・・

その作家陣は以下のとおり。

フレドリック・ブラウン/アイザック・アシモフ/レイ・ブラッドベリ/ロバート・A・ハインライン/ウィリアム・テン/A・E・ヴァン・ヴォークト/エドモンド・ハミルトン/シオドア・スタージョン

中村融、山岸真 編『20世紀SF』第2巻

第2巻は1950年代。

これは!とうなってしまうような名作ぞろいです。良質のアイディアは時代を超えるというSFの奥深さを改めて思い知らされました。特に、面白かったのは、フレデリック・ポール「幻影の街」ポール・アンダースン「サム・ホール」(リチャード・マシスン「終わりの日」のラストの余韻もよいけれど)。

■幻影の街
ガイ・バークハートは、(微妙に異なってはいるのですが)昨日と同じ6月15日に目覚めたことに気づきます。ガイは、同じ日を繰り返していることを知るスワンスンと出会い、真相をつきとめようとします。その驚くべき真実とは ・・・

■サム・ホール
反社会的活動を一切禁止した世界。中央情報局 技術部門責任者のソーンバーグは、戯れに、国民の情報を統制するコンピュータ マチルダへ、存在しない犯罪者サム・ホールをつくりだします。未解決事件をサム・ホールの犯行であるかのごとくデータを改ざんするソーンバーグ。上層部からサム・ホールの調査を命令されて ・・・

その他の作家陣は以下のとおり。

レイ・ブラッドベリ/フィリップ・K・ディック/ゼナ・ヘンダースン/クリフォード・D・シマック/C・M・コーンブルース/エリック・フランク・ラッセル/アルフレッド・ベスター/ジェイムズ・ブリッシュ/コードウェイナー・スミス/シオドア・スタージョン

巻末の解説では明言されていませんが、ロバート・シェイクリー「ひる」は、ウルトラQ「バルンガ」のもとネタなのだそうです。

中村融、山岸真 編『20世紀SF』第3巻

第3巻は1960年代。

ニューウェーヴが台頭した時代ですね。(ほぼ)著名な作家の作品が掲載されています。第1巻、第2巻に比較すると、底抜けに明るい雰囲気や明快さはありませんが、かえってSFの奥深さを感じさせる良質なアンソロジーです。面白かったのは、ジャック・ヴァンス「月の蛾」、J・G・バラード「砂の檻」(次点は、R・A・ラファティ「町かどの穴」、ケイト・ウィルヘルム「やっぱりきみは最高だ」)

■月の蛾
多数の楽器を奏でてコミニュケーションをとり、素顔を見せることをタブーとする惑星シレーヌ。中央星域から派遣された新任領事代理シッセルは、凶悪犯ハゾー・アングマークの逮捕を指令を受けます。仮面の異星人たちとの中で、追跡がままならぬうち、とり逃がしてしまうのでした ・・・

設定の面白さもさることながら、オチが効いており、読み応えありです。

■砂の檻
砂の海に囲まれウィルスに侵された大西洋沿岸地域。ブリッジマンは、トラヴィス、ルィーズ・ウッドワードともに見捨てられたホテル郡に暮らしていました。砂上にあらわれた監視隊が彼らを捕獲すべく探索の手をのばしていき ・・・

荘厳ささえ感じてしまう記念碑的な傑作。

その他の作家陣は以下のとおり。

ロジャー・ゼラズニイ/ハーラン・エリスン/サミュエル・R・ディレイニー/アーサー・C・クラーク/トーマス・M・ディッシュ/ゴードン・R・ディクスン/ラリイ・ニーヴン/ロバート・シルヴァーグ/ダニー・プラクタ/ブライアン・W・オールディズ

中村融、山岸真 編『20世紀SF』第4巻

第4巻は1970年代。

編者曰く「求心的な動きが起こらず、商業的な繁栄を享受しながら、内省を深めていった」時代です。ジェームズ・レィプトリー・ジュニア、ジョン・ヴァーリィ、ジョージ・R・R・マーティンの作品が掲載されているだけで大満足。小難しい作品もありということで、全体としては、わかりやすい第3巻の方が好きかなぁ。面白かったのは、マイケル・ビショップ「情けを分かつ者たちの館」、ジョージ・R・Rマーティン「七たび戒めん、人を殺めるなかれと」((ティプトリー「接続された女」や、ヴァーリィ「逆行の夏」は他の短編集で読めるので)

■情けを分かつ者たちの館
ドリアン・ロルカは採鉱地の事故で、人工器官人間に改造されてしまいました。妻のルーメは、自暴自棄に陥ったロルカに、<情けを分かつ者たちの館>という名の施設での治療をすすめます。ロルカが案内された専用室には、、<分かつ者>である異形の異星人が横たわっていて ・・・

余韻を残すラスト。味わい深いですね。

■七たび戒めん、人を殺めるなかれと
ワイアット主教率いる<鋼の天使>は、第四世代コロニー ジェイミスン・ワールドの現地人 ジャエンシの掃討作戦を展開していました。無抵抗を続ける異星人を見かねた商人のエイリク・ネクロルは、武器を与えて反乱を企てようとするのですが ・・・

まさに、マーティンの世界!

その他の作家陣は以下のとおり。

ジーン・ウルフ/ジョアンナ・ラス/アーシュラ・K・ル・グィン/クリストファー・プリースト/バリトン・J・ベイリー/R・A・ラファティ/フリッツ・ライバー

中村融、山岸真 編『20世紀SF』第5巻

第5巻は1980年代。

サイバーパンクじゃない80年代SFが多く収録されています。読後感がすっきりしない作品集ですね。これは、早川の『80年代SF傑作選』の方が楽しめました(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)。面白かったのは、オースン・スコット・カード「肥育園」ポール・ディ・フィリポ「系統発生」(次点は、ルディ・ラッカー「宇宙の恍惚」、ガードナー・ドゾワ「調停者」)。

■肥育園
三年ぶりに肥満体となったバースが肥育園に戻ってきました。そこは、若く美しい肉体を持つバースのクローンに、一切の記憶を移転し、再生を図る施設です。しかし、定期的に訪れて若返っていくバースは知りません。肥満体の身体がどうなってしまうかということを ・・・ 

おちは予想がつきますかね。

■系統発生
異星人の侵入により、わずかとなった人類の生存者たち。地球環境の再生を断念した彼らは、新しい人類を創りだそうとします。生き延びるために、最高の戦略を持つ生命体として参考にしたの。それは、ウィルスでした。 ・・・ 

なんてったって発想がすばらしい!

その他の作家陣は以下のとおり。

ウィリアム・ギブスン/ブルース・スターリング/グレッグ・ベア/スタン・ドライヤー/マーク・スティーグラー/コニー・ウィリス/イアン・ワトスン/ジェフ・ライマン

中村融、山岸真 編『20世紀SF』第6巻

いよいよ最終第6巻は1990年代。

比較的バリエーションにとんだ作品集です。解説のリミックス時代のSFというのがうなずけます。全6巻が2001年『SFが読みたい!』(早川書房)海外編2位にランクインしていのですが、なるほど、力の入ったアンソロジーでした。 どの作品も良いのですが、面白かったのは、ロバート・J・ソウヤー「爬虫類のごとく・・・・・」イアン・マクドナルド「キリマンジャロへ」(次点は、ジェフリー・A・ランディス「日の下を歩いて」、初読じゃなかったんでグレッグ・イーガン「しあわせの理由」)。 巻末の編者による20世紀SF年表がとても参考になります。

■爬虫類のごとく・・・・・
2022年に制定された社会福祉保護法では、時間転移による安楽死が認められていました。死刑囚の連続殺人犯ルドルフ・コーエンは、有史前のティラノサウルスへの転移を望みます。ティラノサウルスが命をおとせば、コーエンも死亡するのですが ・・・

■キリマンジャロへ
宇宙から飛来する生物パッケージが、爛相林(プラスティック・フォレスト)を形成しはじめました。地球を侵食しはじめた異星の植物群と共生を始める生物、人々。これは異星人の移民計画なのでしょうか。 ・・・

その他の作家陣は以下のとおり。

スティーヴン・バクスター/アレン・スティール/ナンシー・クレス/ウィリアム・ブラウニング・スペンサー/テリー・ビッスン/ダン・シモンズ/ポール・J・マコーリイ

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