【本の感想】村上春樹『中国行きスロウ・ボート』
気がついてみれば、村上作品は、一度も読んだことがありません。
熱狂的なファンが多いゆえに、手を出しにくいというのが自分の捻くれたところ。もし、何が良いのか分からないとなったら、自分の感性を疑ってしまうから。
『中国行きのスロウ・ボート』は、村上春樹の初短編小説です。
本短編集も、是非、村上作品をというわけではなく、古川日出男『二〇〇二年のスロウ・ボート』を読むついでに手に取りました(『二〇〇二年のスロウ・ボート』は、『中国行きのスロウ・ボート』のリミックスです)。(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)
結論から言うと、(陳腐な表現ですが)これまで読んでこなかったのを後悔してしまうくらい、良かったですね。寂しさを感じさせる乾いた文章、平易だけれど巧みな表現方法、どこか異国を思わせる空気感、懐かしさを伴った幻想的な風景・・・ 巷に溢れる村上春樹論に目を通さず、感じたままを述べるとこうなるでしょうか。
特に琴線に触れたのは、突き放したような距離感です。他者との間にある隔たりを、敢えて乗り越えていこうとしない。あるがままを受け止める。そこに潔さのようなもの見るのです。自分は、元来、孤独な人ではあるので、こういう距離のとり方に共感してしまいます。
収録作品は、タイトル作の他、「貧乏な叔母さんの話」、「ニューヨーク炭鉱の悲劇」、「カンガルー通信」、「午後の最後の芝生」、「土の中の彼女の小さな犬」、「シドニーのグリーン・ストリート」です。
あらすじを書くのは野暮なので止めておきます(書いてもつまらなく見えるだけだし)。自分は、アメリカの小説のような「午後の最後の芝生」と、「土の中の彼女の小さな犬」がお気に入りです。「シドニーのグリーン・ストリート」だけ、ハードボイルドのパロディのようで、本短編集の中では雰囲気が違いますね。
村上作品は、ハマると、とことんまでいってしまいそうです。次は、長編のどれかを読んでみましょうか。まだまだ、初心者マークゆえに、読み違いをしているかもしれないからね。